新人の考動が日本経済の将来を決める

---必要なわれわれ自身の変革---

         名古屋大学 客員教授  経済学博士 水谷研治

職場に学校に社会全体に新人が活躍する時期になった。多くの新人は大きな希望と不安を抱きながら新生活を送っているであろう。

まずは新しい環境に慣れなければならない。どのような場合でも。それぞれに固有の習慣があり、それを会得するのが第一歩である。社会の中では一人だけで生きていくことは難しい。関連する人々との連携が重要であり、そのための努力が必要である。新人がそのために努力するのは当然であるが、周りも尽力を惜しまないであろう。一日も早く戦力となってもらいたいからである。

 

今どきの新人類?

ところが聞こえてくるのは、「最近の新人は意欲に欠ける」といった話である。新人からは「面白くない環境だ」との意見が少なくない。それは昔からの話であり、真新しことではない。しかしながら、昨今の若者は豊かな環境の中で育ってきている。そこでは毎日をいかに楽しむかに焦点が当たりがちである。それは社会全体も同様である。三十年以上も成長しない経済の下で生きてきた人々が経済社会の中心を担っている。進歩や発展から遠ざかり、経済活動に努力をしても報いられない体験しかないのではなかろうか。それでも豊かな暮らしを続けることが出来ているのである。資金さえあれば欲しいものは何でも自由に手に入れることができる。

豊かで発展性の乏しい社会の中では、さらに良いものを、より安く作って社会に貢献しようと努めても報いられることは少ない。それぞれが自分の持ち味を生かし、その方面で一流になり称賛されことを目指している。自分自身が出来なくても、それらの天才的な人々を育成し支援することが生きがいになっている人々が多いように思われる。

その結果として今や日本の世界における地位は際立っている。野球やサッカーなど各種のスポーツだけではない。文化の面でも多方面での活躍が目覚ましい。国内でも将棋の天才が生まれ、後に続けと子供たちが熱を上げ、親が支援している。

 

世界的な国民の大活躍を支えた経済力

多くの国民が多方面で活躍できる基本に国全体としての豊かさがあることが忘れられているのではなかろうか。この情勢が30年以上にわたって続いているのである。

このような社会の一員となった新人が身近な経済活動に情熱を注ぐのは難しい。同様のことは新人を迎える側にも言えるであろう。その結果として経済力は順次食い潰されていくと思われる。その間、国民の考え方を戻すことは難しく、経済力は衰退を続けるであろう。その結果として豊かさがなくなってから、やっと方向の転換を図ることの重要性に気付くのではなかろうか。

しかし、そのようにどん底まで落ち込んだ後では、そこからの復活は極めて難しい。過去の栄光が忘れられず。かつてとの落差が大き過ぎて意欲が出て来ないからである。そのことは世界の文明の歴史が示しているように思われる。

豊かさの中で毎日を漫然と楽しむのではなく、何かに打ち込み努力することは貴重であり称賛すべきことである。その対象として日常生活にも直結している経済活動を見直す必要がある。

 

将来の日本経済を決めるのは人の考動

多くの新人が身近な社会で活躍し易い環境を作っていく必要がある。新しい社員が会社の将来を担っていくのである。彼らがどの様な考えで行動するかによって、企業の発展が大きく変わって来る。それらの集合体としての全体の経済も同様である。新人たちの考え方と行動が日本経済の将来を決めるのである。今のままで安穏と惰眠を貪りながら衰退の道を転落していくのか、転換して困難な復旧の道を苦闘しながらも模索していくのかのカギを握っているのが新人である。

そのためには、まず諸先輩の考え方を見直す必要がある。われわれが目指すのは、より良い物やサービスを創り出し社会のために尽くすことである。それが生き甲斐であり、そのために毎日を挑戦することが真の楽しみである社会を作らなければならない。その社会での新人の活躍のために、互いに協力する体制を作りたいものである。それが将来における日本経済の再発展につながると考えられるからである。

 

---時局5月号への寄稿(2024.4.11)から

     水谷研治の経済展望/問題点と対策Vol.56

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