2024.4.1

新人を迎える態勢  ---意欲的な働き方へ---

                 名古屋大学  客員教授    経済学博士  

新人の精気が職場をはじめ社会全体をより明るくする季節となった。しかしながら一方では「最近の新人は覇気がない新人類である」との見解が聞かれるのは毎年のことであり、今年だけのことではない。

いずれの新人でも新しい環境に適応しようと懸命である。ところが、その環境に活気がないと意欲が萎んでしまう。「職場が面白くない」との意見が新人から出ることが少なくないと言われる。

日本の経済全体が成長から遠ざかって30年以上になる。それは経済社会で燃えるような活気がなくなった原因であり、結果でもある。その中で暮らす先輩諸氏の多くは平穏で豊かな毎日を楽しんでいるように思われる。無理をして波風を立てるのは迷惑がられるだけであり、ゆったりと豊かな生活を楽しむ生き方が好ましいと考える人々が社会全体で増えてきたように思われる。

このような社会に順応するためには、活気あふれる行動は歓迎されないであろう。それを敏感に察知した新人は意欲と希望を膨らますことなく。おとなしく環境に順応していくことになるのが自然である。このままでは、いつまでも日本経済の活力は出てこない。それを打開するのは新人に求めるのではなく、われわれ自身が現在の雰囲気を変えていく必要があると考えられる。

それは大変難しい。現実に新しいことに挑戦し、苦労しても報いられることが少ないからである。無理して周りに波風を立てるよりも、必要な最低限を適当にこなしていく方が無難である。経済社会が低迷している場合の人々の生き方である。それが結果として全体の低迷に繋がっている。

明るい話題がないわけではない。経済の先行きを示すと言われる株価が史上最高になったとテレビや新聞などの報道機関が繰り返し伝えている。それが全体のムードを明るくし、今後の経済の先行きに期待ができると多くの人々が考えて行動すると、現実に経済が活性化することは間違いない。しかし、それだけで現在の経済を大きく引き上げ続けることは難しいであろう。

どこかで方向の転換を図らなければならない。それを新人に求めることは無理である。新人がその気になるように我々自身が生き方、働き方を変える必要がある。豊かな社会にあって、それに安住する生き方が多くなっている。それに対し、現状に満足して安易に過ごすのではなく、絶えず新しいことに挑戦することに生き甲斐を見つけ出す雰囲気を作っていく必要がある。

それは決して容易なことではない。しかし我が職場だけは、そのように変えていこうとする人々の意欲が全体の活力の復活につながるのではなかろうか。

 

---電通総研ISIDフェアネスへの寄稿256 (2024.4.1)から---

inserted by FC2 system