袋小路の長期的な経済政策

---難しい政治情勢の安定---

 名古屋大学 客員教授   経済学博士 水谷研治

新年度に向かい国会では予算審議が熱を帯びている。国の施策は細部にわたり決められている。決めるのは国会であり、政治である。

政治が安定していれば、政府としては反対論を抑えて主張を貫くことができる。その反対に政治が不安定であれば、多くの意見を採り入れざるを得ない。もちろん、それは世論を反映する民主主義の好ましい面である。しかし、それには前提がある。いわゆる世論が正しい場合である。現実には多くの国民の意見が今の自分たちの利益を中心に考えがちである。広く国全体のことを考えたり、遠い将来を見通すことが難しい。

重要な政治の役割

本来は、そのような将来の国全体のことを考えて対処することが政治家に委ねられているはずである。ところが政治家が其の役割を遂行することは容易なことではない。まず第一に的確に将来の国全体の置かれた世界の情勢を想定しなければならない。

そこで出てくる結論は、おそらく対処が困難な事態であろう。それに対応するためには大きな犠牲が必要であり、それを今の国民に納得させて実行しなければならない。そのような難題に対しては当然ながら多くの異論がある。特にそのような将来の国全体のことは見通し次第であり、しかも厳しく考えるほど現在の国民にとって支払うべき犠牲が大きくなるためである。当然ながら反対論が多くなるであろう。それを乗り越えて必要な施策を断行するためには強力な権限を持ち、それを発揮できる政治力が必要である。ところが現実の政治の世界では、それが極めて難しい。政権をめぐって熾烈な紛争が起きるからである。

民主主義の問題点

政治家が権限を維持するためには国民の支持が必要である。反対する政治家を排除するのは一つの方法である。その典型が専制主義政治である。それは好ましくないとの意見が多いが必要な国もある。国民が勝手な方向を目指すために混乱することがある。国土が広く国民が宗教や考え方に大きな違いがある場合には必要な体制であろう。

その反対が自由民主主義である。ところが、その場合、政治の安定は極めて難しい、互いに競い合う結果として、混迷することが予想される。崇高な理想を求める国民ばかりではない。多くの人々は目先の自分の利益を優先しがちである。それを汲みとって実現を図ることが政治家として必要と考えられている。

そのためには膨大な資金が必要である。その調達が難しい。誰もが税負担を嫌がるからである。国として必要な資金を少数の金持や企業に求めることになりがちである。

その結果が恐ろしい。多くの国民は自分の税金の負担が少ないために、より多くの受け取りを国に求めることになろう。一方では大きな負担を強いられる富裕層や大企業は高い税金を免れようとして国外へ脱出することを考える。その結果として富を生み出す人材や企業が減って、国の経済力が衰退していく。

分かっていても政治にはそれを阻止する方法がない。それを是正するためには、目先の自分たちの利益を優先するのではなく、将来の国全体のために自分たちが犠牲を払うことが必要であり、それを政治家に託する必要がある。多くの場合、それに値する政治家がいないとされてしまう、そして長期的な転落の道を歩むのが普通である。

それが限界に達した国は嫌でも方向を転換しなければならない。それが現実の多くの国がたどっている道である。

強大な経済力と蓄積が仇

我が国の場合は、状況が全く違っている。過去長年にわたる国民の努力の結果として、強大な生産力、経済力があるためである。それらが生み出した膨大な資産もある。それを利用し取り崩していけば、十年以上も現状を維持できると考えられるからである。その間は方向を転換することが極めて難しいのではなかろうか。

それで良し、とするわけではない。方向を転換しなければならない.その途端に経済は大きく落ち込むはずである。それに国民が耐えなければ、再び現在の道へ戻り長期転落の道を辿らざるを得ない。

多くの反対を覚悟のうえで将来の国のために必要な強硬策を断行し、それを維持するだけの強力な政治体制が必要である。

 

---時局4月号への寄稿(2024.3.8)から---

 水谷研治の経済展望/問題点と対策Vol.55

 

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