2024.2.1

対外戦略の見直し  ---必要でも困難な国内回帰---

            名古屋大学  客員教授  経済学博士  

世界の各地では小競り合いが耐えたことはない。しかし戦争になり、関係する多くの国を巻き込む事態は近年なかった。平和な時代が続き、それを前提として経済活動が行われてきた。すなわち世界的な交流が活発になり、より効率的な経済を目指して世界中で自由な取引が促進され、その恩恵をわれわれは満喫している。安定した世界情勢が長く続いたため、それが当然のことと考えているように思われる。

長く続いた国際化には段階があった。海外への輸出の開拓に始まり、海外の生産拠点の選択から、現地における生産体制の確立という極めて困難な道を切り開いていった。そして、さらに現地でできる製品の質を向上させていった。その結果として、東南アジアを中心とした各国で生産される優秀な製品や部品を我が国へも輸入することができるようになり、我が国は今日の効率的な生産、流通体制を確立してきた。

しかし今や長年にわたる努力の成果としての仕組みを見直すことが必要になってきた。経済活動の基礎となる社会の安全性、安定性を考えれば、生産体制の国内への回帰を考えざるを得ないからである。

それは国内の生産体制を何十年か前に戻せば良いだけのことである。ところが、この間に我が国の生産力が徐々に劣化していて、それを立て直すのは容易なことではない。

われわれが作り上げた強大な生産力の結果として、膨大な供給過剰に悩まされてきたからである。長年にわたりデフレ脱却のために力を注いできた。高品質の製品を大量に作り、国内では製品が溢れている。各種の製品を海外へ大量に輸出して、わが国は世界最大の大金持ち国になっている。

もはや残業までして働くことは歓迎されないどころか指弾されるように変わってきた。働く時間を削減して、それを人々が自分の生活を楽しむために使うことが推奨されている。国民がより多く使うことによって、有り余るモノを減らしてデフレ圧力を弱め、景気を良くしたいためである。

国民の資質を変えることは容易なことではない。勤勉に仕事に励むことの重要性については、われわれが長い歴史の中で培ってきたものである。近年それを変えるために国中が逆の努力を続けてきた。その成果が現れ始めた。一旦動き始めると、その方向は変わることなく今後も続くであろう。その結果として、国民が地道な仕事に打ち込むことは、一層難しくなっていくと思われる。

いつの間にか海外との資質の格差が縮まっただけではなく、逆転してきているのではなかろうか。このままでは国内回帰を目指すことは極めて難しいと思われる。

 

---電通総研ISIDフェアネスWebforumへの寄稿(2024.2.1)254から---

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