強大な日本の経済力

---将来のために積極的な活用を---

 名古屋大学 客員教授 経済学博士 水谷研治

われわれは大小さまざまな問題を抱え、毎日が忙しい。国民の悩みを探し出し政府に訴えて解決しようとテレビ新聞雑誌が活躍する。多種多様の問題に囲まれて暮らしているのであるから、多くの人にとって現在が幸せであるとの実感がないのではかろうか。

しかし日本ほど恵まれた国はない。スーパーマーケットでは多種多様の品物が並び、好きなものを好きなだけ買うことができる。欲しいものはスマホでも車でも簡単に手に入る。このような状況が何十年も続いているのであるから、これが当然で普通のことと誰もが考えているであろう。

しかし世界の多くの国では欲しいものが簡単に手に入らない。モノが乏しいからである。品不足のために値上がりする。インフレに悩む国が多い。物価の上昇率が年間100%を超える国もある。さすがに欧米の経済大国は違っているものの、消費者物価の上昇率が%や6%を上回る国が多く、中央銀行は政策金利を引き上げている。

わが国で国民生活が豊かなのはモノが豊富にあるためである。それは過去何十年もの間、諸先輩が勤勉に創りあげてきた強大な経済力のお陰である。

78年前、敗戦国日本は世界の最貧国と同様であった。全国民が満足に食べることができず、飢えを凌ぐのに懸命の毎日であった。着る物がなく、小さな部屋に大勢の家族が肩を寄せ合って暮らしていた。車は勿論のこと自転車も買うことができず、日常の簡単な道具さえも手に入らなかった。

経済力の源は物作り

そこからの再出発であった。国民が懸命な努力を重ね、粗末な物を少しずつ作っていった。そして、さらに品質を改良し続けて世界に誇る製品を創り出すことができるようになったのである。

世界の人々が要求する高い品質の製品を大量に輸出して日本は世界最大の対外純資産国になった。われわれは今や国内でできないモノも海外から好きなだけ自由に輸入して手にすることができ、世界で最も豊かな生活を楽しむことができている。

これで満足しているわけではない。国民はさらなる幸せを求めている。そのためには相応の努力と資金が必要である。その役割を政府が担ってくれれば、これほどありがたいことはない。

一旦この道が開かれれば、さらなる上乗せを求めるのが人間である。このようなことは普通の国では許されない、国民の生活水準が上がれば、それに応じて国民がモノを買おうとする。ところが、それを供給することができないからである。その結果インフレになり、海外からの輸入が増加するために国際収支の赤字が増大して国民経済が破綻する。

それが起きないのが日本である。それほどの強大な生産力を保有しているのである。これまでの巨額の蓄積を活用すれば5年や10年は今の状況を続けても問題は起きない。むしろ現在の施策がモノ余りの是正のために好ましいとさえ考えられる。

必要な大転換とその準備

この間に国民が勤勉に働いて経済力の基本であるモノを創り出すことを忘れていくことが恐ろしい。そして膨大な蓄積を使い果たした後には莫大な借金が残り、その金利の支払いに全国民が追われることになると考えられる。

方向の転換が必要である。過去何十年にもわたって諸先輩が努力して築き上げた経済力を元にして、将来より豊かになるための施策を考えて実行する必要がある。国としてやるべきことは多い。防衛力の充実をはじめ治山治水や道路橋梁などの公共施設の補修改善、少子化対策、人材の育成などいずれも相当な資金が必要である。

それを豊かな今、国民が負担することなく、逆に子孫に対して大量の借金を積み増している現状を転換する必要がある。そのためには国民の考え方を根本から変えなければならない。そして、その結果としての艱難辛苦を耐え抜く覚悟が必要である。

それが辛いからと言って安易に目先の幸せだけを追う軽薄な行動を何時までも続けていることはできない。強大な経済力のあるうちに方向の展開を図らなければならない。その結果の経済の大幅な低下を覚悟して、その準備を急ぐ必要がある。

 

---時局2月号への寄稿(2024.1.10)から---  水谷研治の経済展望/問題点と対策Vol.53

 

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