安定を続ける日本経済

---将来のための布石を---

  名古屋大学 客員教授  経済学博士 水谷研治

新年の日本経済も引き続き安定を続けると考えられる。言い換えれば成長が期待しにくいのであるから、大きな希望や夢が持てそうもない。しかし多くの人々はこのような安定経済に慣れていて大きな不満は出て来ないように思われる。

明るい話題も少なくない、新型コロナウイルスから解放されて外国人旅行者もさらに増えていくであろう。関連する業界が一層活況を呈し、人手不足がますます問題となりそうである。

予防のために入場を制限していた各種の催し物会場が元通りの賑やかさになってきた。それに輪をかけるのが大スターの活躍である。アメリカの大リーグで記録的な成果を上げた野球の大谷翔平選手や前人未到の8大タイトルを独占した将棋の21歳の藤井八冠はその代表である。野球・サッカー・水泳など多くのスポーツで次々と金メタルが報じられ、音楽・映画など文化・芸術など広い分野で世界最高の栄誉に輝くことは。われわれの誇りである。これらの話題についていくだけでさらに忙しくなりそうである。

消費生活が活況を呈すると回りまわって全体の経済が押し上げられる。政府も引き続き後押しを続けるであろう。産業界に対して賃金の引き上げを要請しているのは、その代表である。消費生活の向上のために残業制限も引き続き重視されるであろう。

ただし国民生活には消費者物価の上昇が響いている。折角の賃金収入の増加も物価の上昇分に及ばない状況が続きそうである。この点では引き続き政府が直接・間接に対応を考えると思われるのが救いである。

問題山積の世界情勢

経済が拡大するためには企業の活性化が必要である。それに大きな影響を及ぼすのは海外の経済情勢である。

世界の経済に明るい面がないわけではない。ウクライナ戦争はいずれ終わるであろう。戦争が終われば復興景気が期待される。ただし、その場合の各国の情勢によって大きな違いが生じる可能性がある。

長期にわたり重しとなっていた新型コロナウイルスの呪縛から解放されて各国の経済社会は明るくなるはずである。ところが現実は期待とは程遠い。

新年の世界経済はむしろ各種の問題山積である。中東情勢はその代表である。長年にわたり蓄積してきた問題が表面化しているだけに深刻であり、イスラエルと関係の深いアメリカをはじめ多くの国々が右往左往している。そのほかにも世界の各地で紛争が絶えそうもない。

その影響が及ぶために自由闊達な経済活動が阻害される事態が続きそうである。円滑な世界貿易と共に、各国との経済連携が難しくなることを想定せざるを得ない。その対応を含めてマイナス要因になる。

わが国にとって最大の貿易相手国であった中国の情勢が芳しくない。大きな問題を抱えていて簡単に解消できるとは思われない。その影響は全世界に及びつつある。

一方、大統領選挙を控えてアメリカの社会が揺れている。経済面でもいろいろな問題があり明るさが見えてこない。ヨーロッパ各国も、それぞれが大きな問題を抱えており、全体としての経済を明るく見ることが難しい。その影響はマイナス要因として世界中に及ぶ。そのために、いわゆる中進国や発展途上国に世界経済を引き上げることを期待することはできない。

将来を考えて意欲的な行動を

一方、国内では業績の好調な企業が増えている。将来を考えて積極的な投資活動を期待したいところである。ところが多くの企業は慎重である。将来にわたって経済に活力が期待できないと経営者が見ているためであろう。

燃えるような投資意欲を期待したいところであるが無理な感じである。企業として、やるべきことは多いはずである。しかし、それらが順調に進行するとは限らない。長年にわたりデフレに悩まされてきただけに、その克服のために需要の拡大を優先してきた。その反面、将来を考えて投資する意欲を無くしているとすれば大問題である。

目先の安易な経済情勢に満足している限り、将来のための意欲的な行動は出て来ない。その結果が今日の姿である。今年も同じ道を淡々と進んで満足しているわけにはいかない。

 

---時局1月号への寄稿(2023.12.11)から--- 水谷研治の経済展望/問題点と対策Vol.52

 

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