2023.12.1
久し振りに明るい歳末の日本経済
--長期的な観点で経済力の復活を---
名古屋大学 客員教授 経済学博士 水 谷 研 治
コロナウイルスから解き放されて久々の歳末である。外国からの観光客が増え関連する業界が忙しくなっている。各種の競技場や劇場などでは観客が戻ってきて活気が出てきた。久し振りの賃上げが人々の消費をかさ上げしている。企業の業績が上乗せになってきた。
もちろん問題がないわけではない。円安に伴う輸入物価の上昇などから消費者物価が上昇し、人々の生活に影を落としている。人手不足によって荷物の配送が遅れ、社会全体で大きな問題になりそうである。しかし、それらの問題が全体の経済を押し下げるようなところまでは行っていない。
海外の諸国では物価の上昇率もわが国より倍以上のところが少なくない。経済成長率が下がっているにもかかわらず、金利が下げられないでいるなど、思い切った景気振興策が取れない国が多い。それに対して、わが国では政府がいろいろな救済策を出し、それ等が景気を下支えしてきた。
わが国の経済成長率は久し振りに上昇している。長年にわたり経済成長から見放されていただけに、喜ばしいことである。
ところが、これで満足しているわけにはいかない。かつての、わが国の高度経済成長時代の成長率とは比べものにはならない。諸外国の従来の成長率と比べても残念ながら低い。この30年にわたり、日本が成長しない経済を続けている間に、多くの国々に追いつかれ、追い抜かれて、わが国の国際的な順位は急落を続けてきた。
それには為替相場での円安が大きな要因となっている。円安で輸出産業が潤って国内の景気が上昇する一方で、対外的な日本の力量が低下しているためである。このまま安穏に国内の僅かな景気上昇だけで満足しているわけにはいかない。
円安の是正のために中央銀行による金利政策が取りざたされることが多い。アメリカの金利に比べて日本の金利が極めて低いことが円安の大きな要因であることは間違いない。しかしながら長期的には、その背景に、わが国の経済力の低下があることを見逃すことはできない。
長年にわたり、わが国の政府は景気の下支えと引き上げを目指してきた。そのために利用したのが財政政策である。もし強力な赤字財政政策によって景気振興を図らなかったら、日本経済は今よりもはるかに低い水準に低迷していたはずである。われわれが、その恩恵を享受している反面、膨大な借金を後世代に残してきた。
将来のことを考え、目先の回復に安住することなく、長期にわたる経済力の復活を目指していくことが必要である。
---ISIDフェアネスへの寄稿(2023.12.1)から---第252回