見直しを迫られる海外戦略

---国内回帰による再発展を目指そう

 名古屋大学 客員教授  経済学博士 水谷研治

多くの企業は長年にわたり海外へ進出し世界的な規模で業務を展開することを目指してきた。その結果として世界的に活躍する企業が急増し、関連する多くの企業を含め、わが国の経済を拡大させ発展させてきた。

 従来の世界経済の基本はアメリカが作り上げたものである。圧倒的な経済力と軍事力を背景にした世界的な自由貿易体制である。その恩恵をわが国が受けている。東南アジアの諸国も同様であり、それがわが国にとって、さらなる好影響をもたらしてきた。

それが変わり目にきている。アメリカの力はかつてとは異なり、世界を動かす圧倒的な力が無くなっている。そのうえアメリカ経済の弱体化が世界経済の足を引く事態になりつつある。長年にわたり順調な成長を続けた世界経済と共に発展を続けた各国の経済が影響を受け、それが直接間接にわが国の経済に悪影響を及ぼしている。

国際化による発展

自由経済は弱肉強食の世界でもある。自由経済の恩恵にあずかるためには、ひ弱な日本経済の体質強化が必要であった。そのために長年にわたり国民の懸命な努力が続けられた。その結果としてアメリカをはじめ世界の経済大国と肩を並べるところまで到達したのである。

我が国の企業は、さらなる発展を目指して国際化を進めていった。海外進出である。全てを国内で生産するのではなく、国内よりも安い人件費による効率化を狙って海外での生産に力を注いだ。それは大変な苦難の道であった。経済基盤が整っていない国での生産体制の確立は苦労の連続であった。長年にわたる奮闘の結果として、現地での生産を軌道に乗せると、次は品質の向上を目指していった。

その結果として効率的な体制が出来上がった。安い部品が国内へ供給できるようになった。現地で生産された各種の製品を全世界に供給するようにもなっていった。良い製品を安く輸入できるために、わが国では生産しなくなった製品もある。それらを輸入して、われわれは豊かな経済生活を謳歌している。

その前提には世界的に自由な動きが必要であり、世界的な安定が不可欠である。それが変わってきた。効率的で安定した経済活動が期待できなくなれば、これまでの国際化の反対の動きが必要になる。

困難でも必要な国内回帰

生産の国内回帰である。何十年か前に戻るだけのことである。ところがそれは大変難しい。この間に国民の考え方が変わってしまったからである。かつての行動を「働き過ぎ」として排除することに力が注がれ、それがようやく成果を挙げつつある。それを元へ戻さなければならない。戻すことができなければ、わが国の生産力の本格的な復活は難しい。

働く時間を短縮して余暇を楽しむために使うことが推奨されてきた。それが消費需要を高めて景気を引き上げるからである。このようにして国民は生活を謳歌している。しかも、それが傾向として加速している。この動きを反転することは極めて難しい。それは国民生活に犠牲を求めることになるためである。

われわれが変革できなければ。世界情勢の動きに翻弄される事態が続くと考えざるを得ない。海外からの輸入が滞ると国内の生産活動が制約を受けることになる。国内の生産力が低下する結果として、わが国の経済力は低下を続けるであろう。

この動きを変えることは極めて難しい。しかし放置していては豊かな日本経済は次第に衰えて、ついには貧弱な姿を晒すことになると思われる。

大きな国際情勢の変化に対して受け身になって逃れようとするのではなく、将来に向かって日本経済を今一度、発展させるための改革の好機として、とらえたいものである。

 

---時局12月号23.11.7 23.10.10への寄稿(2023.11.10)から---

    水谷研治の経済展望/問題点と対策Vol.50

 

inserted by FC2 system