2023.11.1

消費者物価の潜在的な上昇要因 

 ---安すぎるサービスへの対価---

               名古屋大学  客員教授  経済学博士  

 「物価上昇のために国民生活が苦しい」と何時の時代でも言われる。それに対して政府は各種の救済措置を実施して国民の不満を抑えようとしている。それには大量の資金が必要になるが、必要で不可欠として断行する場合が少なくない。

 国民は物価を少しでも安くしてほしいと考えている。物価が上昇する要因を国民に受け入れさせることは至難である。公共料金の値上げが難しく、いつも難航することなどはその例である。

 消費者物価には人手が掛かるモノが少なくない。理容や美容などは典型であるが、われわれの身近な物価には生鮮食料品など多くの人手が掛かっているものが多い。しかし長年にわたり経済が成長することなく横這っていて賃金が上がらなかったこともあり消費者物価指数は安定的に推移してきた。

 ところが将来を展望すると、人手不足がさらに進み従来とおりのサービスが維持できなくなって、このような安定的な消費者物価を期待することが難しくなるのではないかと思われる。

 {心遣い」「相手の気持ちに沿った行動」等々は社会が円滑に動く基本であり極めて重要である。それが日本の良さであり、海外でも高い評価をいただいている。それが長年にわたり浸透していることは素晴らしいことである。

 外国と違って我々にはチップを払う習慣がない。サービスは無料との考えが浸透している。ところが、それではサービス産業が成り立たない。人件費が支払えないと、働く人が集まらない。

人手が余っている場合には問題が表面化することはない。しかし現実にタクシーの運転手不足や宅配業者の人手不足が問題となってきている。留守宅への宅配は大問題である。現在は宅配人が何度も足を運んでも配達料が上乗せにならないのではなかろうか。これでは配達する人にとってはたまったものではない。

各種の流通業者の活躍で円滑な経済社会が成り立っている。それを維持するためには、各種のサービスに対する対価を上乗せする必要がある。それには最終価格へ転嫁する以外に方法はない。それができない場合には、市場から消えざるを得ない。全ての人々がその不利益を受けることになる。

現在の物価は多くのサービス業に携わる人々の安い賃金を前提にしているのではなかろうか。それが異常であり、是正せざるを得ない。それが各人にとっての将来計画に大きく影響を及ぼすことは言うまでもない。

---ISIDフェアネスへの寄稿(2023.11.1) 251から---

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