期待される企業の設備投資

---投資を促進するのは国民の将来に対する意欲---

 名古屋大学 客員教授   経済学博士 水谷研治

企業活動に復活の動きが見られる。コロナの影響で世界的に生産活動が落ち込み、資材や部品の調達ができず生産活動に支障をきたしていた主要企業の復興が有難い。大企業の活動は関連する多くの企業に直接・間接に影響を及ぼす。業績の向上する企業が新聞紙上を賑わせている。上昇ムードが高まることが期待される。

幸いにも今年の賃上げは大きく、最低賃金も引き上げられた。それらが消費需要を嵩上げするであろう。来日する外国人も増加してきた。関連する業界が活気を取り戻しつつある。

長年にわたる悲観ムードから脱却する好機である。企業の設備投資意欲にも動きが見られる。将来を展望して新天地を開拓しなければとの意気込みは全ての企業が持っているはずである。ところが現実に売れ行きが伸び悩み、企業の業績が悪いと、まずは目先の問題に対処せざるをえない。将来のことは後回しになる。

それが元へ戻ってきたと考えられる。この間に企業内の蓄積を増やしてきた企業は多い。景気の先行きに不安がある場合には、企業としても防衛的にならざるを得なかった。その資金を将来のための投資に動員することができる。そのための内部留保であったはずである。

このムードが広がれば、経済界全体として活気が出てくる。企業の設備投資が全体の景気を引き上げるところから本格的な景気上昇への転換が期待される。

投資の条件は整っている

かつては経済界が一斉に投資へ向かうと全体として膨大な資金が必要になり、資金調達が難しくなったこともある。しかし現在は資金が極端に余っているため、この面での危惧は全くない。

必要なのは投資に対する意欲である。将来のことを真剣に考えない経営者はいないであろう。そのための条件が満たされないために投資に踏み切れないで来たと考えられる。その一つが将来に対する需要の見通しである。それが今後の景気によって大きく左右されるだけに、多くの経済人にとって景気の動向には異常なほどの関心がある。その動向が企業の設備投資と密接に関連している。

企業内部にも多くの課題がある。人材不足は共通する永遠の課題である。将来に対する意欲が求められる。この点については企業内で、あるいは各部門内での努力が必要である。しかし、それは一般社会の流れと無関係ではない。社会全体として、将来を目指す意欲的なムードがあれば、各企業内での前向きの推進力になるからである。

投資に不可欠のチャレンジ精神

もちろん課題は多い。投資をすれば実を結ぶとは限らない。むしろ失敗に終わる場合が少なくない。分かっているだけに投資に当たっては十分に検討されているはずである。しかし将来のことで読み切れない部分があり、問題が出た場合に対処する以外にない。関係者が問題の解決に当たることになる。その意味で多くの関係者が力を合わせなければならない。大きな投資を決断するのは責任者であるが、その場合の前提として関係する多くの人々の協力が不可欠である。すなわち全体として将来のためを考えて積極的に苦難を乗り越えていこうとする意欲が重要である。

社会全体として、そのような意欲が高まれば、あらゆる部門で将来のための投資が進むであろう。ところが現実は、その反対の風潮が高まっているように思われる。

現在は誰もが飢えているわけではない。高望みをしなければ生きていける。無理して将来のことを考えるよりも現状のままで居る方が安泰であると考える風潮が続いている。長年にわたる高い水準での安定した経済がその背景にあると思われる。この経済情勢が続くと考えられる以上、あえて将来のために苦労しようとする考え方が強くならない恐れがある。

世論に大きな影響力を持っているのは新聞テレビ雑誌などの報道機関である。しかしこれらのメデイアは毎日毎週の報道が中心であり、長期的な問題点を指摘することは少ない。しかし報道されないからと言って知らないで済ますことはできない。将来を決めるのは現在の我々以外にないからである。

 

---時局11月号heno23.10寄稿(2023.10.10)から---

 水谷研治の経済展望/問題点と対策Vol.50

 

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