2023.10.1 250

消費増大への期待は過大?

―――自衛のための貯蓄の重要性―――

     名古屋大学  客員教授  経済学博士  

 消費が増えれば売り上げが伸びて企業の業績が良くなる。その結果として給料が上がり人々の懐を潤すであろう。それがさらに消費を増やし、全体の景気を押し上げる良い循環が生じることが期待される。

 ところが収入の内、多くを使えば貯蓄は少なくなり、将来の生活が心配になる。しかし現実には長年にわたり社会福祉が充実し、将来はさらに手厚くするような動きがある。政府に対して福祉の充実が働き掛けられ、政府もその計画を麗々しく掲げていて心配する必要はなさそうである。それらを実現するためにも経済を成長させる必要があり、個人消費を伸ばして景気を押し上げたいと主張されている。

ただし、そこには各種の前提がある。20年以上にもわたり続いてきた豊かな国民生活が今後も続き、それを政府が強力に支援し続けなければならない。ところが、それば大変難しい。これまでの高い水準の国民生活は長年にわたり営々と努力を続けた諸先輩の作り上げた高度の生産体制のおかげである。しかも、それを現実に手にするためには景気が維持されていなければならない。それが実現したのは政府の膨大な借金による支援のおかげである。

将来にわたり少子高齢化が進む中、莫大な財政赤字を無くし、膨大な国の借金を返済するためには大増税が避けられない。ところが増税の話はだれもが避けたがる。選挙を気にする政治家が最も嫌う。本来は報道するべきテレビや新聞・週刊誌も視聴者や読者の評価を気にしてか本格的に採り上げようとしない。

従来のような政府による支援が無くなれば、各人が自分で生活を守る以外にない。その時、頼りになるのは長年にわたり自分が貯め込んだ貯蓄である。

それを考えれば、現在の消費礼賛の流れに簡単に乗るわけにはいかない。それを多くの国民が自覚しているとすれば、個人消費の増大による景気の上昇に大きく期待することも難しいのではなかろうか。

 

---ISIDフェアネス-パーフェクトWebへの寄稿250(2023.10.1)から---

inserted by FC2 system