2023.6.1

久々の賃上げで景気は上昇するか?

―――ムード一新での景気上昇は難しい―――

     名古屋大学  客員教授   経済学博士  

 春闘の成果が人々の懐を潤し、一息つくようになってきた。夏のボーナスにも期待が膨らみそうである。世界的に新型コロナウイルスが沈静して、経済活動が戻りつつある。人々の動きが活発になり、来日する外国人観光客が増え、関連する業界が明るくなってきた。

 きっかけとなった賃金の引き上げを望む経営者は多い。人手不足を補うためには賃上げが必要である。会社の発展を担う人材に給料を出し惜しむことはできない。当社の社員には他社よりも多くの給料で気持ち良く働いてもらいたいと願わない経営者はいないのではなかろうか。

 ただし給料は来年も再来年も支払わなければならない。その元になる売り上げが伸びるか否かが心配である。それが景気によって大きく左右されるだけに、景気の行方には神経質にならざるを得ない。景気が明るくなり始めれば、それを先取りして積極的に出る企業が増える。後れを取ることはできない。賃上げだけではない。景気の上昇に合わせ、さらには先取りして準備をする必要がある。投資が活発になる。それが全体の景気を一層引き上げる。

 このような好ましい上向きの動きが絶えて久しい。それだけに簡単には変わらないように思われる。その上に多くの問題点が未解決であり、暗い話題には事欠かない。

ウクライナの戦争はいずれ終って戦後の復興景気が来るはずである。しかし、それを当てにすることは難しそうである。欧米の先進国では景気が低迷する中でインフレが続き、金利が上昇している。銀行破たんの話も伝わってくる。

 長年にわたり続けてきた財政赤字による経済運営が限界にきていて、景気に悪影響と分かっていても財政引き締めが必要なのは、わが国だけではない。大量の資金を出して景気を支えてきた金融政策も転換せざるをえない国も少なくない。これらの是正策が効果を発揮するまでには相当な年月が掛かるはずである。その間は本格的な景気の上昇を期待することは難しい。それらを考えると、景気上昇への機運が簡単に高まるとは思われない

 

---ISIDフェアネス-パーフェクトWeb への寄稿2462023.6.1)から---

 

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