長期的に心配な国際収支

---当分は深刻な問題にならないが---

 名古屋大学 客員教授  経済学博士 水谷研治

昨年の国際収支(経常収支)の黒字が一一兆円へと半減した。大変なことである。ところが、その割には、円相場が急落するわけでもなく、大きな騒動にはなっていない。

基本となる貿易収支が二一兆円もの巨額な赤字に転落したのであるから、深刻なはずである。ところがわが国の場合にはそれを補填して余りあるだけの莫大な収入があるために、経常収支は半減したとはいえ、依然として大きな黒字を維持している。

 

日本は世界最大の対外純資産国

その基になっているのは、わが国が長年にわたり積み上げてきた膨大な黒字の累積である莫大な対外純資産である。その投資・運用の配当や利子などが巨額になっているためである。

このような国際収支の基本的な状況は今後も続くはずでる。それでも貿易赤字がさらに増えて経常収支が赤字になった場合は対外支払資金が不足するようになる。

そのために本来なら赤字は許されない。ただし赤字のために不足する資金を海外から借りれば乗り切ることができる。大資産国のわが国であるだけに容易に資金を借りることができるであろう。そのため現在の状況を変えることなく何年も国際収支の赤字を続けることができる。

その結果として、やがては膨大に積み上げた対外純資産が無くなり。純借金国へと転落していくことが予想される。そして本当の限界に至り、一気に経済破綻が表面化する恐れがある。

 

輸入の削減と輸出の増進が不可欠

国際収支の中身を注視する必要がある。基本は貿易赤字である。その中には一時的な要因もあり、それ等は無視しても構わないが、基本的には輸入を削減し、輸出を増進する必要がある。

輸入には原燃料などの必要不可欠なものがある。それ以外は大幅に削減しなければならない。国民の生活水準を引き下げることが必要になる。従来とは正反対に景気引き締め政策を採らなければならない。

一方では、より多く稼ぎ出すことが必要である。それは簡単なことではない。諸外国に買っていただけるような、従来以上に良いモノを安く作らなければならないからである。そのためには国民がより勤勉に働く必要がある。

長年にわたり推奨してきた正反対への転換が求められることになる。わが国では豊かでモノ余りの状況が長く続き、そのためにデフレに苦しんできた。デフレから脱却するためには、作り過ぎを止めなければならない。人々が残業などで余分に働くことが指弾され、生活を豊かにするために働く時間を縮小することが勧められてきた。

一方では需要を増やすために消費が推奨され、生活を楽しむために多くの試みが採り上げられてきた。お陰で国民は長年にわたり豊かな文化生活を謳歌してきた。それを逆転させなげればならない。

従来どおりの生き方を続ける方法がまったくないわけではない。借金をして繰り回せばよい。前述のように借金ができるだけの経済大国の特権を生かせば、何年も国際収支の赤字を続けることができるからである。

それが現実に予想される筋道であるような気がする。それが何年も続いている間は国民が安穏な生活を送ることができる。その後で破綻が表面化する。

 

必要な経済体質の改革

わが国の輸出力が衰えてきている。かつては世界中へ輸出してきた製品の多くが海外で生産されるようになり、輸出ができなくなってきた。それただけではない。逆に海外から、それらの製品を輸入するように変わってきている。

この流れは放置しておく限り今後も続くであろう。そのためにわが国の貿易収支が傾向として悪化を続けることが心配である。

その転換は容易なことではない。国民の働く意欲を高めなければならず、それが極めて難しいからである。だからと言って放置しておくことはできない。必要な結果が出るまでには何年もかかるからである。早急に改革に取り掛かる必要がある。

 

--- 時局5月号への寄稿(2023.4.10P28-29から 水谷研治の経済展望/問題点と対策Vol.44---

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