偽りの平穏に安住し続ける日本経済

---改革の兆しは見当たらない---

 名古屋大学 客員教授  経済学博士 水谷研治

新年度2023年度の日本経済が高い成長になると見る向きは少ない。

明るい話題がないわけではない。2年間以上にわたり悩まされてきた新型ウイルスもやがては収まるであろう。世界を揺り動かしたウクライナ戦争も終戦の日を迎えるはずである。従来とは反対に膨大な戦災復興需要が関係国を通じて世界の景気を大きく引き上げるであろう。

大きな重しが取り除けられれば、それだけで元の流れに戻る力が景気を上昇させる。閉じこもりのために消費を控えていただけに懐に余裕がある人達は、その分だけ余計に資金を使うことが予想される。これまで委縮していた反動で人々が活発な行動を取り戻し、活力が出てくる。売り上げが増加して企業も将来を明るく見ることができる。それを背景にして投資が盛り上がるであろう。ムードが変われば人々の動きが様変わりに活発になり。ますます景気を引き上げる。

景気低迷下の物価上昇

ところが現実には期待に反して多くの問題がのしかかる。この2年間で世界の経済が様変わりになってしまった。先進諸外国の景気が低迷する一方で物価が上昇し、急成長を続けて世界中を牽引してきた中国の経済成長率が大きく低下している。各国の経済活動に支障が生じ、その影響で世界的に原材料や製品の動きが予定通りにいかなくなってきた。それが各国の生産活動に影響し、経済活動を阻害する事態となっている。

わが国の場合も海外からの部品の調達が滞って生産活動に支障をきたしている。一方で日本の金利が低いと言われ円が売られて円安が続いた。そのために輸出産業が助かった反面、輸入物価が上がり、全体の物価の上昇につながっている。

これまでも日本の政府は懸命な支援策を繰り出してきた。企業に対して各種の救済措置が採られ、消費の振興に補助金を出し。物価対策に資金が提供されている。景気を良くするためには大量の資金が必要である。政府はそれを国債の発行で調達している。莫大な政府の赤字のおかげで日本経済は下支えされている。ところが、それが長年にわたって続いているため、膨大な借金による下支えが前提となった経済運営が当然視されている。そのため2023年度についても、これまでと同様に大過なく平穏に景気が推移すると見込まれる。諸外国が物価の上昇と景気の低迷に苦吟する中で、わが国だけは異例の平穏な景気を続けることができると思われる。

国の借金に頼る経済運営は続く

誰もが望むのは経済が成長することである。しかし、それを政府に要求しても無理である。政府は景気の下支えだけで力を出し切っていて、全く余力がない。しかも長年にわたり、それを大量の国債発行に依存しているため、国の借金は巨額になっている。この情勢は今後も続くと考えられる。続けられるのは日本が過去に作り上げた強大な経済力のおかげである。まだ何年もの間、この状況を続けることができるであろう。そのため経済は成長しないままに、国民は豊かな生活を謳歌し続けることができる。

何年もたった後に破綻が表面化する。経済力が低下を続け、モノ余りがモノ不足へ転換する。国際収支が赤字になり、赤字が急拡大を続ける。物価の上昇が加速する。金利が上昇して国が借金地獄へ転落する。国民は悪性インフレの下で悲惨な生活を強いられる。

それを回避するためには相当な覚悟が必要である。莫大な国の借金を返済しなければならないからである。借金を返済するためには収入を増やし支出を削減する以外にない。国の収入である税金を大きく引き上げる一方で国の支出を徹底的に削減しなければならない。

それを断行すれば、景気は大きく低下する。しかも弾みがついて急落を続けるであろう。そこを耐えて改革を続けなければならない。それだけの覚悟を決めて取り掛かる必要がある。

そのような気構えが国中のどこにもない。このことは現在の国民にとっては幸運である。赤字国債によって大きく嵩上げされた高い経済水準を謳歌することができるからである。その咎めが将来の国民に残ることに眼を瞑るだけである。2023年度も従来と同様なことになりそうである。

 

---時局4月号 Vol.43への寄稿(2023.3.10)から---

      水谷研治の経済展望/問題点と対策

 

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