202311

平穏な2023年の日本経済 ―――長期的には深刻な事態へ―――

名古屋大学 客員教授  経済学博士  

 

1 インフレと不況の世界経済

コロナ禍に続くウクライナ戦争の影響で世界経済は暗い新年を迎えた。アメリカやヨーロッパ諸国はインフレと不況の中で寒さに震えている。世界経済を引き上げてきた中国の勢いが復活するようには思えない。そのために世界中が低迷を続けると思われる。

現在は悪い要因が重なっているものの、それらは、やがてはなくなるはずである。コロナウイルスはいずれ沈静化するであろう。コロナ禍によるマイナスは順次解消し、経済活動が復活して明るくなるはずである。ウクライナの戦争もいずれは収束するはずである。戦争が終われば、復興景気が期待される。

しかし世界経済が元へ戻ることは難しい。長年にわたり世界経済は自由貿易を基本として効率的な分業体制の下で発展を続けてきた。国際分業の危険性を痛感した経済人は世界的な分業体制の再構築を迫られており、簡単に元へ戻ることは考えられない。

2 対応に懸命な政府の経済政策で平穏な日本経済

 その中でわが国の経済は平穏に推移すると思われる。確かに消費者物価は上昇し国民の生活を圧迫している。経済成長率は低いままで低迷を続けるであろう。しかし欧米諸国と比べれば、物価の上昇率は半分か3割程度に過ぎない。諸外国の経済成長率が急落するのに対し、わが国は20年以上も成長しない経済であり、成長率が下落するわけではない。

 もちろん、それで良しとしているわけではない。日本の政府は従来と同様に景気を下支え、引き上げようと懸命である。物価対策として生活援助に資金を出すなどはその一つである。政府による強力な支援によって日本の景気は引き続き下支えされていくと思われる。

ただし政府の経済対策としては現状が精一杯であり、さらなる景気の上乗せは民間が意欲的に活動して作り出す以外にない。

3 長期的には衰退

 残念ながら現在は政府の政策に依存して安穏な状況に安住するだけで、燃えるような熱意で経済発展に取り組もうとする向きが少ないように思われる。その結果として経済力は下落を続けるであろう。それでも過去の遺産が大きいために支障は現れない。

 このような状況を続けることできる国はない。貯えが無くなり、使えなくなって貧困に沈むからである。わが国がそのような状況になるまでには相当な期間が掛かると思われる。それほど過去の蓄積が大きいのである。その間に国民は勤勉に働くことを忘れ、もっぱら毎日の生活を楽しむことに精力を費やす国民に変わっていくことが心配である。この方向を転換することは極めて難しい。そのため日本経済は凋落を続けることになろう。

 国民が自ら稼ぎ出さなくても高い生活水準を謳歌していられるのは、政府が多額の財政赤字を続けて支援してくれるおかげである。それが半世紀も続くと、このままで永遠に続けられると思い違いをしてしまうのも無理はない。何の不都合も生じていないからである。現実には国債残高が莫大な額となっていて、さらに毎年急増を続けている。将来は金利が上昇し、国が借金地獄に陥るのは避けられない。その結果、悪性インフレで国民の生活は破滅に向かうと考えられる。

4  大不況を覚悟で財政改革を

 方向転換が必要である。借金のない状態へ戻す以外にない。財政改革が必要である。

 政府支出の徹底した削減と大増税が必要である。その結果、わが国の経済水準は急落し、長期にわたり下落を続けるであろう。それは我々が長年にわたり借金生活を謳歌してきた報いである。国民は倍以上も働いて、借金を返していく以外に方法はない。それを子孫にやらせるか、借金を作ってきた我々が断行するかの選択である。

 破綻が表面化するまでには相当な期間がある。その時に備え、目先の平穏がいつまでも続かないことを念頭に置いて、それぞれが長期的な対応を急ぐ必要がある。

 

---事業構想大学院大学名古屋同窓会会報第2号への寄稿(2023.1.1)から---

名古屋同窓会山本浩司会長 k.yamamoto-8@m.mpd.ac.jp

 

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