低位安定を続ける新年の経済

---飛躍には一時の後退も必要---

 名古屋大学 客員教授  経済学博士 水谷研治

新しい年に期待し夢を膨らませたいと誰もが念願する。それが叶えられる要因がある。悲劇の元になっていたウクライナ問題はいずれ収束するであろう。そうなってロシアとの関係が元へ戻れば、ヨーロッパをはじめ世界の経済は息をつく。ウクライナの復興需要が景気を押し上げる。暗いムードが一転して世界の景気が上昇し、その影響はわが国にも及ぶはずである。

楽観できない国際情勢

ただし、そのような楽観的な見方を否定する事象が続いている。ウクライナ問題が収束しても、その後の世界が元へ戻るとは考えられない。ヨーロッパの先進諸国はインフレと景気の悪化が深刻になっている。それは新型コロナウイルスに続くロシアとウクライナの問題に関連している面があることは間違いない。多くの国で景気が悪化する一方で物価が上昇しているために政情が不安になっており、それを鎮めるために無理な経済政策を重ねてきた。それが限界にきており、多くの国が手詰まりとなっている。

一方、世界の大国はいずれも国内の分裂に悩まされている。アメリカは国を2分する勢いであり、民主主義の醜い面をさらけ出している。中国も国内に多くの問題を抱え、政府としても制御することは簡単ではない。不動産・住宅問題も深刻であり、経済が低迷して国民の不満が高まることが恐ろしい。

世界経済が元へ戻ることが難しいだけではなく、さらなる混乱へと向かう要因すらある。わが国としては海外情勢の好転を待っていることはできない。新しい世界経済の体制に沿って転換を図らなければならない。ところが国内の景気は思わしくない情勢が続いている。そのために大きな転換を図るだけの余力があるとは思われない。

止められない景気振興政策

経済成長率を高めることが重要なことは分かっている。政府もそのために懸命である。個人消費を活発にするために、元になる所得を増加させようとして賃金の引き上げを産業界に要請している。一方で消費者物価の上昇への対策として補助金を増やし国民の不満にこたえる努力を重ねるであろう。

ただし賃金を上げるためには企業が売上を伸ばし収益を増やさなければ長続きしない。分かっているだけに政府は長年にわたり無理を重ねているのであり、その無理をさらに上乗せする結果としての景気引き上げに期待することは難しい。

政府は景気を下支えしようとして膨大な財政赤字を続けてきた。それができる体力が日本経済にあったためにできたことではある。このような政策を転換することは極めて難しい。景気の下支えをなくした途端に景気が落ち込むからである。そうなれば政権がもたない。政府としては無理と分かっていても、目先の景気を重視せざるを得なかった。日本経済の体力が続く限り政府としては、これまでと同様に景気振興政策を続けることになろう。

それは現在の国民にとってありがたいことである。現在の高い経済水準を維持することができるからである。新年も引き続き安泰な生活を期待できる。

長期的な観点で方向転換を

ところが、体力の限界が来た将来は悲惨である。景気の維持ができなくなって景気が大きく落ち込むだけではない。これまで何十年もの間に積み上げてきた膨大な国の借金の金利支払いがのしかかるからである。

このような事例は世界中でたびたび目にしている。分かっていても方向の転換が難しく、最終段階になるまで落ち込み続けるのが多くの国の実例である。

それを回避する方法は「落ち込みを覚悟する」ことである。誤魔化しは効かない。その結果は明白である。経済水準の低下は避けられない。

それに備える必要がある。幸か不幸かそのような事態がすぐに来ることはない。まだまだ日本経済には余裕があるからである。

本来は政府が即刻、方向転換を図るべきである。それには強力な政治体制の確立が必須である。ところが新年も政治情勢に大きな変化はなさそうである。

それだけに高い水準の景気が続いている間に国民も企業も将来のための対策を立て断行していく必要がある。

 

---時局1月号P30-31への投稿(2022.12.10)から--- 

   水谷研治の経済展望/問題点と対策Vol.40

 

inserted by FC2 system