2022.12.1

比較的平穏な日本経済の歳末

―――世界の中の地位低下は続く―――

        名古屋大学  客員教授    経済学博士  

 日本経済は比較的平穏に年末を迎えているのではなかろうか。

 確かに為替相場がドル高円安になり、物価が上昇して国民生活に影響している。景気は低迷が続き、先行きに対する明るさが見えない。しかし世界的には新型コロナウイルスに続いてロシアのウクライナ侵攻によって大変な年になっている。アメリカやヨーロッパの先進諸国の物価上昇率はわが国の2倍にも3倍にもなっており、景気が落ち込んでいるにもかかわらず、各国の中央銀行は政策金利を引き上げ続けている。それらの多くの国々と比べれば、わが国の現状はそれほど悪いとは言えない。

諸外国が軒並みに経済成長率を大きく下げているのに対して、日本の経済成長率は格別に大きく下がっているわけではない。そのため一般に危機感が薄いように思われる。わが国の経済が成長しなくなって30年以上になり、今の水準で推移することに疑問を抱く人が少なくなったためかもしれない。現在の経済水準に慣れ、諦めているようにも思える。

現実には成長する各国から取り残されているために、世界における日本の地位は大きく後退している。この動きは将来にわたって続くであろう。その結果として、わが国の世界における地位は今後も着実に低下を続けると考えざるを得ない。

政府は消費者物価の上昇による生活苦を和らげるための対策を繰り出している。政治情勢からそのような施策が要請されることは分かる。しかし、そのような目先の対応策だけで大きな流れを変えることはできない。

 長年にわたる低迷から飛躍するためには一旦、身を縮めることは避けられない。相当な犠牲をいとわずに将来を目指さなければ大きく転換することはできない。われわれはいつの間にか、そのような気構えを失くし、長年にわたって築き上げてきた高い経済水準に安住することになってしまったように思われる。日本経済の活力を取り戻すためには、われわれが満々たる意欲を持ち、将来に向かって長く地道な努力を続ける必要があるのではなかろうか。

 

---ISIDフェアネス-パーフェクトへの寄稿(2022.12.1) 240から---

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