2022.11.1
金融政策の限界
―――金余りの中では無理―――
名古屋大学 客員教授
経済学博士 水 谷 研 治
日本銀行への風当たりが強い。欧米各国の中央銀行が政策金利を大幅に引き上げ続けているのに対し、日本銀行が低い金利に固執しているためである。
低い金利の円よりも金利の高いドルなどを保有する方が得である。円が売られドルが買われる流れになり、為替相場が急速に円安になっていった。その結果、輸入物資が値上がりし、企業物価が大きく上昇している。それが波及して消費者物価も上がってきた。物価の上昇が大幅な欧米と比較すれば、上昇幅は小さいとはいえ、消費者すなわち国民の生活に直接影響する。
国民生活を守るために日本銀行は欧米の中央銀行にならって大幅な金利引き上げをするべきであるとの論調もある。それらは重要な経済政策としての金融政策に対する期待から来ていると思われる。
長年にわたり日本銀行が行う金利の上げ下げと供給する資金量の増減によって日本全体の経済を動かしてきた。それは資金が経済取引にとって重要な役割を果たしているためである。資金がなければ買うことができない。資金は貴重であり、貴重な資金を増やせば経済取引が活発になり、逆に資金が無くなれば経済が縮小することになる。
ところが、そこには資金が貴重であるとの前提がある。経済取引において資金が極めて重要であることは当然である。ところが資金が豊富にあれば、資金に希少価値は無くなる。有り余る資金の量と金利を動かしても経済取引を動かすことはできない。それがわが国の現状である。
これほどの金余りの基本は経済の先行きに期待できないために積極的な投資活動が低迷していることにある。資金需要が少ないのである。その一方で膨大な資金の供給が長年にわたって続いている。そのために国内における資金余剰は膨大であり、資金の価格である金利は極めて低くなっている。
このような金融情勢の下では金融で経済を動かす金融政策は無力である。日本銀行が力を発揮することを期待することは難しい。
---ISIDフェアネス-パーフェクトWebへの寄稿第239回(2022.11.1)から---