2022.10.1

借金(=マイナスの貯蓄)の功罪

―――借金分だけ需要が縮小―――

          名古屋大学  客員教授   経済学博士 

 不安定な将来に備えるためには貯蓄が重要である。貯蓄は収入から支出を差し引いた分である。貯蓄を増やすためには消費を抑えなければならない。

買わなければ確かにお金は貯まる。しかし人々が買わなければ売れなくなり経済が回っていかない。モノが余っている現在のような場合には、無理してでも買ってもらうことが必要である。貯蓄を増やしては困るのである。消費が奨励されている。美味しい料理が並べられ、流行の服飾が飾られ、旅行の魅力が宣伝され、社会の流行に乗り遅れてはお付き合いができない

それは個人だけではない。企業に対しても同様である。企業は賃金や配当に支払うことを渋り、貯め込むだけで投資にも使おうとしないため、経済に活力が出て来ないと言われる。個々の企業にとっては健全経営で好ましい反面、全体の景気の足を引っ張ることになり、経済全体としては困ると言われる。

 景気を盛り上げるために奮闘しているのが政府である。政府が収入である税収よりもはるかに多くの支出をしているおかげで現在の経済が成り立っている。

 収入より多くを支出するためには不足する分を借りればよい。ただし借金をすると返さなければならない。その時には収入より少なく使って資金を借金の返済に充てる必要がある。それが辛いために借金をしないように人々も企業も苦労をしているのである。

 国の場合は目先の必要性からだけではなく、全体の景気を引き上げるためにも大量の借金をしている。景気を良くするためには、前年より多くの借金をする必要がある。現実に国の借金は急増を続けている。

 その恩恵を全国民が享受しているのである。ところが。その認識がなく、将来それを返済するとき、どのような負担が全国民に掛かってくるかを語られることが少ない。そのときの経済が破滅的な状況になるのは当然であり、そのことを念頭に置いて将来設計を考えておくべきである。

 

---ISIDフェアネス-パーフェクトWebへの寄稿238(2022.10.1)から---

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