世界経済の再構築は多難

---世界はもう元へ戻れない---

 名古屋大学 客員教授  経済学博士 水谷研治

ウクライナ問題が簡単に解決するとは思われない。ロシアが大きな犠牲を払って確保した東部地域を簡単に手放すはずがない。一方で、ウクライナ並びに支援してきた西側の諸国がロシアの行動を是認して引き下がることは難しい。ロシアに対して続けられている経済制裁はロシア社会に大きな影響を及ぼしているが、西側諸国にも深刻な問題をもたらしている。ロシアからの原燃料が滞ると西ヨーロッパは電力不足など大変な影響を受ける。穀物の輸出が滞るために食料不足の影響が世界中へ広がっている。

ウクライナ問題が解消し、戦後の復興期になって、ヨーロッパを中心にして世界中が復興景気になることを期待する向きが多いと思われるが難しそうである。たとえ、そのように収束しても世界経済が元へ戻ることはないであろう。

効率を求めた末の大打撃

ソ連の崩壊後、世界は自由主義経済が成果を誇ってきた。効率が重視され、世界中で最も良い条件の下で生産が行われ、部品と製品が世界各国に提供されてきた。おかげで、わが国を含めて多くの国々が恩恵を受けて経済を成長させ発展を続けたと考えられる。

その動きが支障をきたしたのは、新型コロナウイルスの世界的な大流行がきっかけである。多くの国々で人の移動が制約された結果として経済活動が支障をきたすことになった。円滑な経済運営を前提として無駄なく効率的な生産体制の下で経済発展を続けてきた世界経済が乱気流に見舞われた。部品の調達ができなくて生産ラインが止まる工場が出てきた。

制約を受けたのは生産活動だけではない。人々の移動が制約された結果としてサービス業や飲食業が打撃を受け、社会全体の雰囲気が沈滞することになった。

新型コロナウイルスの影響はいずれ収束するであろう。それにつれて、世界的な経済情勢は元へ戻ることが期待されていた。そこへ新たにウクライナ問題が発生した。

深刻な物価高にモノ不足

当事国ウクライナの惨状は余りにも痛々しい。しかし周辺国は勿論のこと西ヨーロッパ諸国も大きな影響を受けることになった。ロシアへの制裁措置が跳ね返ってくるためである。資源国ロシアからの供給が途絶えることが、経済に甚大な影響を及ぼしている。原燃料の途絶は経済社会の活動を制約する。各国は懸命に対抗措置に走っているが、影響は深刻である。ウクライナからの穀物輸出が制約される影響は世界的な食糧難へと拡大し、飢饉の恐れの国が出てきている。

アメリカやヨーロッパの先進国で物価の上昇が著しく、放置できない事態になっている。各国の中央銀行が金融引締め政策へ転換したのは、その一端である。

この事態はウクライナ問題が解消すれば、ある程度は解消するはずである。しかし事態が円満に解決するとは思われない。そのためロシアに対する制裁が残り、対抗策としてロシアからの資源供給の制約が続くと考えられる。それはロシアにとって輸出ができないために国際収支上、大変な痛手であるが、簡単には妥協できないと思われる。

国際化の見直しが必要

各国間の信頼が損なわれたことが大きく影響している。各国が自国第一主義であることは昔から変わらない。それでも他国に譲歩することが自国にとっても有利であるとの考え方から、いわゆる国際化が進展したと考えられる。それが通用しなくなったのが昨今の世界情勢である。

いわゆる経済大国が弱体化して以前のように世界のために力を発揮して問題を丸く収める役割を果たせなくなっている。そのために各国ともに自国のことを最優先に考えざるを得ない情勢になったと考えるべきである。

長年にわたり、いわゆる国際化によって多大な恩恵に浴してきたわが国としては、根本から経済の在り方を作り替える必要がある。それが大変困難な途であることを認識しなければならない。それは国だけでできることではない。企業による長期に渡る対応が必要になる。新しい体制ができて成果が上がるまでには長い期間が掛かるであろう、その間は何も得られないのである。それを承知で努力を続けるためには、国民の一人一人にその覚悟が必要である。その気がある人が企業を支え、国の将来を作ることになるのではなかろうか。

 

---時局10月号P26-27への寄稿(2202.9.8)から---

    水谷研治の経済展望/問題点と対策Vol.36 

 

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