2022.8.1

インフレの波

―――急がれる長期的な対応―――

      名古屋大学  客員教授   経済学博士  

 消費者物価の上昇は国民の生活に直接響く。3%の上昇でテレビや新聞で騒がしい。長年にわたりデフレ経済の中で物価の上昇とは無縁であっただけに、大きな問題となっているのは当然である。輸入する原燃料や食料飼料などが値上がりしていることが響いていて、消費段階への価格転嫁がさらに進むことが心配である。

欧米の主要国では消費者物価が1割近くも上昇しているのであるから、さらに深刻である。ウクライナ問題が終息して世界情勢が元へ戻ればよいが難しそうである。安定した経済活動が世界的な規模で復活すると期待することができなくなっている。各国の生産活動が元へ戻らないと、もの不足が続くと考えざるを得ない。

このような事例は従来もたびたび起きていた。ただし、それは一部の例外的な国に限定されていた。それが多くの先進国を巻き込んだ動きになってきているのである。

その中にあって、わが国は恵まれた状況にある。基本的には依然としてものが余り、多くの国民は豊かな生活を送ることが出来ている。豊富にものが余る中で生まれ育って、それ以外の世界を知らない国民ばかりになり、インフレの恐ろしさを体験した人がいなくなりつつある。

物がなければ作ればよい。しかし、それができないためにインフレになるのである。物を作り出すことは極めて難しい。精密な多くの部品をそろえなくてはならない。膨大な生産設備が必要である。それを効率よく動かすためには物流など各種のサービス機構がそろわなければならない。それらが、すべて揃い、しかもある程度の余裕がなければ、安定した生産活動が続けられない。そのための安定した経済社会が大前提として必要である。

それが損なわれつつあるのが世界の現状である。その再構築は極めて困難であり、長期間を要すると考えざるを得ない。目先の消費者物価のさざ波のような上昇の向こうに諸外国を巻き込んだ大きな波があり、その流れが近づくことを考えて長期的な準備を急ぐ必要がある。

 

---ISIDフェアネス-パーフェクトWebへの寄稿(2022.8.1) 236から---

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