世界経済は混乱期へ

--外交を支える経済力の再構築を---

 名古屋大学 客員教授  経済学博士 水谷研治

 ウクライナ問題がこのような展開になると予想した向きは少ないのではなかろうか。ヨーロッパ各国がこれほど同調することは珍しい。ロシアの味方が少なく世界の主要国から孤立することになった。ロシア経済は崩壊の危機を迎えるのではなかろうか。資源大国であるだけに世界的に特にヨーロッパの国々では返り血を浴び大きな打撃を受けることになる。正常化を望む動きが各国で起き、以前のような安定した関係が求められるかもしれない。しかし世界の経済情勢は元に戻ることなく、新しい秩序を模索することになると思われる。

 第2次世界大戦の後、アメリカが圧倒的な経済力を背景にして世界経済の仕組みを作り運営を続けた。しかし世界の各国が経済力を培ったためアメリカの経済力は相対的に弱くなっていった。そして急拡大する中国との間で対立する事態となっている。世界の経済情勢が今後どのような姿になるにせよ、以前の状態へ戻ることは考えられない。

 

恵まれた世界情勢の中での日本の経済成長

長年にわたり世界は比較的安定し発展してきた。その中でわが国の経済は急激な発展を続け、繁栄を謳歌してきている。それは基本的に我々の努力があったためではあるが、その前提として世界経済の安定と発展があったことを忘れることができない。

 東西の冷戦があり、われわれがアメリカの側に居たことが幸いし、廃墟からの復興が進んだ。その後も世界中に向かって大量の輸出を続け、急激な経済成長を長く続け日本は経済大国になった。

 経済活動が円滑に効率良く行われるためには社会の安定が欠かせない。それは国内だけではなく、国際的な取引が増えれば関連する各国内でも必要である。そのために関係する企業が費やした努力は計り知れない。

しかし、それぞれの国には独自の要因があり、政治的・外交的な大きな流れに企業だけで対応することは難しい。幸いにも従来は世界的に安定していた。それが大きな変動にさらされているのである。これまで長年にわたり進めてきた国際化の流れを再検討しなければならない。

まずは安全、安定である。それが確保されなければ効率的な経済活動が成り立たない。長年にわたり培ってきた効率化を見直す必要が出てくる。それは直接関係する企業にとって大変な負担であることは言うまでもない。関連する多くの産業にも影響が及び、最終的には消費者が負担することになる。このようにして日本経済全体に大きく影響すると思われる。

 

大前提である国の安全確保は国民の義務

 ウクライナ問題は国の独立・安全の問題を改めてあぶり出すことになった。ロシアにも応分の言い分はあるのであろうが、最後は力による解決が断行されることになった。山脈一つ、河一本で隣国と接している国が少なくない。それぞれが懸命な外交、防衛体制を整え、同盟関係を結んで安泰を図っている。今回のウクライナ問題で各国とも改めて見直しを迫られると思われる。

 我が国の場合には海に守られているために、そのような意識が乏しい。いわゆる国際感覚が欠け、国の独立や安全は当然と思い込みがちである。もちろん外交や防衛は国家に任せる以外にない。そのために企業や国民がそれを念頭に置いて国を支援することが必要である。

 その認識がないままに、われわれは諸外国の友好を前提にした安寧を当然として、それに対する準備も対応もしてきていないように思われる。厳しい国際関係が普通であり、そのための対応を欠落したままでいることは許されない。普通の国家としての体制を作る必要がある。それは国民の義務である。

 その必要最低限を忘れ、将来への備えを無視し、長年にわたり現在の生活だけを楽しむことに重点を置いて来たように思われる。普通の国並みになるためには相当な準備と期間と費用が掛かるであろう。

 外交には総合力が発揮される。その基礎になるのが経済力である。我が国は有数の経済大国であった。しかし、このところ凋落が著しい。世界の情勢が混沌とする中だけに、経済力を作り直すことは極めて難しい。それを認識したうえでの覚悟と努力が必要と思われる。

 

---時局6月号P26-27への寄稿(2022.5.10)から---

    第33号 水谷研治の経済展望/問題点と対策

 

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