2022.5.1

「円高歓迎論」

―――為替相場は長期的に経済力を反映―――

名古屋大学  客員教授  経済学博士  

 外国為替市場で円安が進んでいる。輸入品が値上がりして最終的に国民の生活に響くため、円安が問題になってきた。

 我が国では長年にわたり逆に円高が問題視されてきた。輸出して外貨を手に入れても円高のために目減りして収益が低下するからである。輸出産業は基幹産業であり影響は日本中に波及する。そのため円高を悪者扱いにする時期が続いた。

 (その中で「円高歓迎論」を飯田先生との共著で1995年に出版したが、まったく歓迎されなかった。)

最近はアメリカやヨーロッパで物価が上昇してきたため金利を政策的に引き上げる傾向にあるのに対して、わが国では物価の上昇率が低く、日銀は相変わらず低金利政策を維持しているために魅力のない円が売られる傾向になっている。

さらに重要なのは日本の貿易収支が赤字になってきた点である。実需に基づく円売りが考えられる。原油や天然ガスをはじめ食料や各種の輸入原材料が上昇し、わが国の輸入金額を大きく押し上げているからでもある。

原油価格の大幅な上昇に基づき貿易収支が赤字に転落した事例は過去にもあった。しかし、しばらくすると値下がりによって貿易収支も黒字へ戻っていった。今回も同じような経過を期待したいところであるが、今回は世界の経済情勢が違っている。新型コロナ問題に始まりウクライナ問題が世界の経済情勢を大きく変えようとしているからである。

 為替相場は実需に基づく売買だけではなく、将来を見越した思惑が加わり、さらには政府による各種の政策も影響を及ぼす。しかし長期的には為替相場はそれぞれの国の経済力を反映する。一国の経済力は他国では作れない良いものを効率よく作り出す力である。製品は大量に輸出されるであろう。良い製品が安く国内で作られるために海外から買う必要がなく輸入が少なくなる。結果として貿易収支は黒字になり為替相場は高くなる。円高が好ましいのである。

劣化しつつある生産力を再構築することこそ目指すべき方向と考えられる。

 

---ISIDフェアネス-パーフェクトWebへの寄稿(2022.5.1)から---

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