2022.4.1
不安定化する世界情勢への対応
―――原材料の調達問題から経済体制の再構築へ―――
名古屋大学 客員教授 経済学博士 水 谷 研 治
社会が安定していないと経済活動が円滑に行えない。大きな変動要因になるのは天災や人災である。
先ず発生するのは流通問題である。長年にわたり人と物が順調に交流できることが前提として成り立っている効率的な経済活動が支障をきたす。
必要な原材料が入手できないと経済が回らない。本来なら。そのような事態を想定して日ごろから準備がされているはずである。ところが、わが国では長年にわたり安定的な経済社会情勢が続いてきたため、それを前提として経済が運営されてきている。たとえばモノが溢れていて注文すれば直ぐに手に入るため、余分な在庫を持つ必要がない。いかに在庫を少なくして効率的な経営をするかに力が入れられ、それを定着させてきた。
災害などによる事故に遭遇すると、すぐに対応しなければならない。原材料の確保がまず必要になる。買い手が殺到するため製品の在庫も積み上げておく必要がある。全体として各種の在庫需要が急増し景気が盛り上がる。ただし盛り上がりは一時的であり、危機が過ぎれば一時的に積み上げた在庫の分だけ需要が落ち込んで元へ戻るのが普通である。
危機が世界的な規模になり、しかも長期化すると必要な対応が違ってくる。一時的に積み上げた在庫を元へ戻して減らすことができない。しかも単に在庫の問題にとどまらず、生産体制をはじめ全体の経済運営を見直すことが必要になる。それが軌道に乗るまでは経済活動が落ち込むのは避けられない。その後は長期にわたる生産体制再構築のために苦労が続く反面、経済は活況を呈することが期待される。
コロナに続く大国間の紛争からウクライナ問題へと世界の情勢は従来とは大きく変わってきた。当分の間、以前のような安定した国際情勢に戻るとは思われない。目先の原材料品の調達問題だけではなく、潮流の変化を視野に入れた対応が必要になる。大きな変化であるだけに対応は大変である反面、そこには多くの飛躍の機会があるはずである。
---ISIDフェアネス-パーフェクトWebへの寄稿(2022.4.1) 第232回から---