日本経済の長期的な行方

 --厳しい将来への備えを---

 名古屋大学 客員教授   経済学博士 水谷研治

 新年度を迎えるにあたり、目先の景気だけでなく今後の日本経済の行方について考えてみたい。足元もおぼつかないのに、将来のことなど見る余裕がないと言われるかもしれない。しかし多くの人々は漠然とではあるが将来も現在の状況が続くとの前提を置いているように思われる。もし、それが大きく変わるとすれば、それに対応する準備が必要になる。

 毎日の生活に追われていて将来のことなど考える余裕がないとの声が聞こえてくる。その基本には現在が恵まれていないので、その克服こそ最重要との考え方がある。思わしくない景気を何とかして上昇させるのが最優先と声高に主張される。

その考え方に沿って日本の政府は長年にわたり力を尽くしてきた。そのおかげで現在の景気は大きく嵩上げされている。その恩恵をすべての企業も国民も受けていることが忘れられ、もっと思い切った景気振興が必要であると言われる。

 モノが豊富に有り余っているのが現状である。売れ残っている商品があるため、さらに生産することができなくて経済活動が停滞している。全体の経済を活性化するためにはモノが消費されなければならない。さらに生産してモノを創り出すのではなく、逆に使い尽くすことが必要である。その方針のもとに長年にわたり無駄遣いが推奨され、それが浸透してきた。

 いつの間にか、わが国のモノ作りが弱体化してきている。国内でモノが余っているのであるから気が付かない。足らなければ海外から買ってくればよいからでもある。長年にわたり貯め込んだ世界最大の膨大な資金を使えば、いくらでも海外から買うことができるからである。

急落する世界の中の順位

 わが国の世界における経済的な順位が急落している。この傾向は当分の間、歯止めが掛からないであろう。一人当たりの国内総生産でアメリカをはるかに抜き去り世界一をうかがった往年の日本経済は見る影もない。現在の24位から30位以下へ向かって急落を続けると思われる。旺盛な経済力で世界に君臨してきた日本は見る影もない状態になっており、世界の中で相手にされなくなっていくことが心配である。すでに、その兆候が各所に表れている。

 われわれにはこのような経験はない。急激な経済成長を長年にわたって続けてきただけに、それが当然と思いがちである。しかし世界の先進国の推移を見れば、全く違った方向への転換が見られる。

長年にわたり急拡大を続け、膨大な資産を蓄えた国が、その巨額の資産を元にして繁栄を続けようとするために凋落が始まる。莫大な資産を費消するためには何十年もかかる。その間に国民の資質が変わってしまう。営々と努力して困難な道を切り開いて少しずつでも前へ進むことが疎んじられる。恰好よく華やかに生きることが推奨され、それが人々の目標になっていく。

大きな蓄積を使い続けることができる間は何の問題もない。その間に国民性が変わっていく。真面目にコツコツと努力する姿は恰好が悪いとされ、派手に遊びまわることを多くの人々が目指すようになる。一旦この方向ができると、国民が再び勤勉性を取り戻すことは難しい。それが多くの偉大な先進経済大国のたどった道である。この大きな何度も繰り返された教訓を忘れることはできない。

長期的な観点と必要な対応

 そして、転換が極めて難しいこともわきまえる必要がある。方向の転換には莫大な犠牲を伴うからである。

遊んで楽しむ毎日を取り止め、早朝から深夜まで細かく難しい仕事に打ち込んでいく生活に戻らなければならない。その結果、長期にわたり全体の経済は大きく落ち込むであろう。それを覚悟のうえで方針を決めて断行しなければならない。

 そのような大改革が必要であるものの、現実には実行が難しい。このことは現在の我々にとっては幸いである。景気が急落することなく、現在の景気が続くことになるからである。

ただし、その結末として、20年後30年後には相当悲惨な生活になることを忘れてはならない。それに備えることが個人にとっても企業にとっても必要である。

 

---時局4月号P30-31への寄稿(2022.3.9)から---

 水谷研治の経済展望/問題点と対策 No31

 

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