2022.2.1

金融政策の転換とその影響

―――正常化への困難な途―――

              名古屋大学  客員教授     経済学博士  

 ヨーロッパやアメリカでは相次いで金融政策の転換が進んでいる。コロナウイルス対策として予防、救済さらには景気の落込み対策として膨大な資金供給が行われ、金利を大幅に引き下げてきた政策からの脱却である。ただし、その程度や速度は国によって、かなりの違いがある。

 経済情勢が違うために当然である。物価の上昇率に差があり、国際収支の悪化度合いも違いがある。さらに大きな違いが出る要因に政治との関わり方がある。中央銀行が政府に対し過度の配慮をすると景気を悪化させる金融引締め策を採り難くなるからである。

 わが国の場合、輸入原材料の値上がりの影響が大きい。貿易収支が赤字になり、久方ぶりに企業物価が大きく上昇している。新型コロナウイルスの影響で海外の生産活動が制約を受けているため部品の輸入が予定通りに進まず、国内の生産体制に支障が出ている。それ等がモノ不足に繋がり企業物価が上昇している。それでも消費者物価の上昇率は諸外国と違って著しく小さい。全体としてモノ余りが依然として大きい中だけに景気を抑制する金融引締めへの転換が難しい。小出しにゆっくりとした転換が予想されるところである。

 金融政策を転換すれば金融市場では直ちに反応するであろう。為替相場は円高になるはずである。ただし為替相場は諸外国との相対的なものであるだけに、出遅れて円安になったところからの取り返しとなろう。極端な金余りを前提として成り立っていた株式市場などでは先を読んだ動きになると思われる。

 国内の金融情勢は極端な金余りとなっている。それだけに、どれほど資金の供給量を削減しても過剰な分を吸収することはできない。そのため金融引締めが経済活動に本格的に影響することにはならないと考えられる。

 政府としては基本的に景気振興を推進するであろう。その中にあって金融政策の転換がどの程度可能であるかと日銀の苦悩が続くと思われる。それだけに、金融政策の効果は大きいとは言えないが、方向転換が影響する分野のことは考えておく必要がある。

 

---ISIDフェアネス-パーフェクトWebへの寄稿(2022.2.1)から---

 

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