激動する輸出・輸入の環境

---不安定な世界情勢への対応を---

 名古屋大学 客員教授  経済学博士 水谷研治

輸出が増えると国内の景気が活気づく。輸出産業には多くの企業が関連しており、それらが恩恵を受ける。一方で経済活動が活発になると必要な原料や燃料をはじめ各種の資材や部品の輸入が増える。

そこには各種の前提がある。輸出製品を買ってくれなくてはならない。海外の経済活動が活発であることが肝要である。一方、必要とされる輸入品が自由に入手できなければならない。

長年にわたり世界経済が安定的に発展してきたため、このような状況が今後も続くとの前提で経済活動が行われてきたと思われる。その結果、現在の極めて効率性の高い経済運営が成り立っていた。

猛威を振るうコロナウイルス

昨年来の新型コロナウイルスの影響は甚大である。しかも分からないことが多く、世界中が手探りで対応している。ヨーロッパからアメリカへ伝搬し、その勢いが全世界に広がると言われていたものの、東アジアへの影響は大きくなかった。その後ウイルスが変異すると、それまでとは違った面が出てきた。ワクチンが有効であると言われ、それに注力されているものの、多くのことは経験からの仮説に基づいていて、本当のことが科学的に分かるのは二・三年、あるいは四・五年の検証後になるのであろう。試行錯誤はまだ当分の間、続くと考えざるを得ない。

感染防止のために人の接触を制限することが経済活動を阻害する。関連する業界は勿論のこと、多くの国民にとって日常生活に支障があり、政府に対する不信感が高まる。それを鎮めるために各国の政府は救済措置に懸命である。

しかし影響が長引けば、安定的な経済活動を続けることが難しくなる。その状況が全世界に広がっている。世界経済の落ち込みは大きく、本格的な回復は期待されているものの難しそうである。

輸出環境が様変わりである。国による格差もあり、いったんは好転しても長続きするか否かが分からないため、見通しが立てられない。

各国の生産体制も不安定であり、我が国から進出した海外の関連企業でも安定的に活動できる見通しが立たないところがある。そのため安定的に原材料や部品を輸入することが難しくなっている場合が出てきた。国内の生産活動が制約を受ける。

国際化の前提が崩壊

このような事態は想定されていなかった。長年にわたり産業界は懸命に国際化を進めてきた。その前提には世界経済が安定的に成長するとの想定があったはずである。もちろん長い間には各種の問題が発生していた。しかし多くは個別の事情によるものであり、何とかして解決してきた例が多い。全体の経済が好調であれば、個々の問題を解決することが比較的容易である。

反対に経済情勢が悪化し、景気の下降が続くと各種の問題が表面化する。それらが関連して経済だけではなく、社会全体が不安定になる。それを解消するために政治が懸命になる。ところが現実には政権に対する不満が高まり、政治情勢が不安定になる。それを利用しようとする向きも出てくる。

経済大国がそのような事態になると、その影響は全世界に及ぶ。どの国でも各種の問題を抱えている。それらが肥大化してくると、簡単に解決できないだけではなく、深刻な問題に発展することが考えられる。その影響は広範囲に及ぶ。

体制の見直しが必要

わが国にとって重要な貿易相手国であるアメリカと中国の将来は明るいとは言えない。ヨーロッパも統一性が乱れてきた。中近東は混乱が続きそうである。東アジアは直接間接の影響が免れない。世界経済の拡大によって恩恵を受けてきた資源国は深刻である。二酸化炭素の排出を削減する計画の長期に渡る影響を受ける国もある。

新型コロナウイルスによる落ち込みからの復活は期待できるであろう。しかし、その後の世界経済は元のようには戻らないのではなかろうか。自由貿易の下で世界中が発展していくとの前提が崩れると、わが国としては勿論のこと、各企業にとっても大きな方針の見直しが必要になる。

 

---時局11月号P30-31への寄稿(2021.10.7)から---

   水谷研治の経済展望/問題点と対策

 

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