今年も立てられない夏休み計画

---余剰資金は消費へ戻るか?---

 名古屋大学 客員教授  経済学博士 水谷研治

長い夏休みをどのように利用するかに多くの人が楽しい夢を持ち、例年そのための計画が何か月も前から準備される。新型コロナウイルスのためにすべてが無駄になった。豪華な海外旅行は勿論のこと、国内旅行も予定通りに実行できそうもない。外出の自粛が出ればすべては水泡になる。最悪の場合は家の周りを徘徊するだけになってしまうかもしれない。夏休みの楽しみがなくなる半面、費用の工面がなくて済む。予定していた資金が余る場合も多いであろう。

 

関連業界は我慢の限界

計画が立てられないのは対応する業者側も同様である。年に一度の書き入れ時に向かって何か月も前から、いや何年にもわたって施設を整え人員を配備しなければならない。それらが無駄になると取り返しがつかない。我慢するしか仕方がないが、耐えられないところも出てくる。従事している直接間接の多くの人が職を失うことになりかねない。それが全体の経済に及ぼす影響は深刻である。

それでも多くの業界ではコロナ禍の終焉を願い、その後に期待して我慢を続けている。コロナ騒動が終われば、待ち構えた多くの人々が戻ってくる。貯まった大量の資金をもって来てくれるのである。それまでの辛抱であり、今までの分を取り返す好機である。それまでは耐え忍ぶ以外にない。

ところが限界にきているところが増加しそうである。規制を緩めると下火になったコロナの勢いが盛り返す。そして次の波がより大きくなることを何度も経験すると、いつ収束するかの見通しがつかない。早めに見切って店じまいをしたところは傷が浅かったかもしれない。追い込まれて倒産するところが増えそうである。決断ができなくて苦吟する企業も少なくない。

 

期待される消費の復旧と盛り上がり

コロナの終焉によって、大きく落ち込んだ売り上げが戻り、今まで落ち込んだ分まで上乗せすることが期待される。人々が使わなかった大量の資金が余っているからである。それが全体の需要を押し上げて景気が盛り返すことを皆が願っている。

ところがコロナの影響は簡単に収まりそうにない。一旦は下火になっても、しばらくするとまた盛り返し、それが何度も繰り返すため終焉の見通しがつかず、経済社会が異常な事態となって、復旧の目途が立たない。

このような事態になるとは想像していないのは当然である。わが国では長く平穏な経済が続いてきたが、世界的にも高い経済成長に慣れてきただけに、今後も同様の経済が続くものと多くの人々が考えてきていると思われる。それを前提にした社会になり、その中での消費行動であったであろう。

 

危機対応のために消費より貯蓄の重視へ

それが見直される可能性がある。長年にわたり社会全体が豊かさを謳歌して消費を盛り上げてきた結果として、需要が伸び全体の経済が成長を続けたと考えられる。これまでのように経済が回らなくなると人々の生活設計が変わってくる。外出が制限されて消費が抑えられている。その結果、人びとの余裕資金が大きくなっているはずである。しかし、それを以前のように使い切ってしまうことにはならない可能性がある。危機に備える必要性を痛感させられたからである。余った資金を使い切るのではなく、貯蓄に回る分が増えるのではなかろうか。

新型コロナウイルスの結果、大きく落ち込んだ経済水準は,コロナ禍が終われば、大きく反騰することは間違いない。ところが個人が将来に備えて節約的になれば、元の水準まで戻ることは難しい。

遠隔業務が増加するなど新しい分野が開けて関連する投資が景気を引き上げる力になる面がある。しかし全体の経済水準を早急に元へ戻すことは難しいのではなかろうか。

しかも、わが国だけではなく各国ともコロナ対策として経済政策を限度いっぱいに、いや限度を超えて発動している。それだけに、さらなる景気振興政策を期待することはできない。逆に、これまでの大幅な赤字財政や超金融緩和の転換が必要であり、それが景気を抑制する要因になることを忘れることはできない。

 

---時局8月号P30-31への寄稿(2021.7.7)から--- 水谷研治の経済展望/問題点と対策

 

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