社会と経済を支える重要なサービス部門

---その役割と必要な見直し---

 名古屋大学 客員教授  経済学博士 水谷研治

 新型コロナウイルスの影響を被っている最大の被害者はサービス産業である。中でも観光業、飲食業、興行は深刻である。被害が極めて小さいわが国でさえこの状況である。多くの国々での状況は想像を絶する。国際間の人の交流が途絶えて久しい。一旦は乗り越えたかに見えても第4波の後、第5波も心配である。変異ウイルスの影響も恐ろしい。まだまだ分からないことばかりである。出口の見当がつかない。

 

軽く見られがちなサービス業

 社会の中でサービスに従事する人は膨大である。それらの人々のお陰で社会や経済が効率よく和やかに成り立っている。それにもかかわらず。昔からとかく軽視されてきた部門のように恩われる。士農工商と言われた序列の考え方が残っているためであろうか。

 食うのに必死であれば、先ず農業を中心とした第1次産業が重視されるのは当然である。百年前には日本の人口の半分強が農業を中心とする第1次産業に従事していた。国民が食うのに困らなくなると変わってくる。今や全体の4パーセントを下回るほどに激減している。仕事の内容も変わってきている。一鍬ごとに土を掘り起こし、手で稲の苗を植えていた昔とは異なり、機械化が進み、機械の運転と整備に時間を割き、作物の販売計画に知恵を絞っている。

 世界を席巻した工業国日本産業の中心は第2次産業のはずである。ところが世界中が目を見張った経済発展の原動力になった第2次産業に従事していた人々は、最大であった1975年でも全人口の3分の1強に過ぎなかった。

 現在は全人口の3分の2強が第3次産業で働いている。第2次産業の中で直接生産活動に携わることがなくても、それを支え、円滑に推進するためのサービス部門は極めて重要な役割は果たしている。それにもかかわらず、間接部門などと言われて軽視されることがある。

 豊な社会になり、物を創り出すことの重要性が認識されなくなり、有り余るものをいかに消費するかが。重視されるようになると、社会の中でサービス部門の役割が重要になってくる。人々に潤いを提供するいわゆるサービス業が繁栄する。

ところが、それが必要不可欠かと問われれば、豊かな社会では重要な役割を担っているにも関わらず、豊かさがなくなれば軽視される分野である。

 

浪費が重要で不可欠な社会

 ものが豊富に余り続ける限り、それを利用することができるため、人々が相互にサービスをしあって楽しむことができる。落語に出て来る「花見酒」の経済が成り立ち、国全体として繁栄を続けることができる。有り余っているものを作ることよりも、それらをいかに使い尽くすかに力を注ぐ必要がある。そうすれば、さらに多くのものを作ることが出来て経済は拡大循環となり、国民はより豊かさを謳歌できるからである。浪費が貴ばれる。文化が華やかになる。楽しむことに人々が熱中し、興業が盛んになる。人々は優雅な文化生活を楽しむことができる。

 この段階における新型コロナ禍である。人々は生活様式を変えざるを得ない。そのために従来のサービス産業が成り立たなくなった。それに伴って経済社会が変わり、困窮者が急増する。全体として需要が減少し、経済も縮小して豊かさが萎むであろう。

もはや以前のように多くの人が交歓して楽しむことができなくなり、生き方が変わる可能性がある。元へ戻るとは限らない。新しい生き方に社会が順応する必要がある。

 

禍を転ずる好機と考えたい

 それは悪いことばかりではない。従来の傾向が前提としてきたところの、もの余りの豊かな経済がやがては限界に来ると予想されるからである。国民が享楽的になって、新しいものを創り出す力が衰えていくと、やがては経済的な繁栄から見放され、退廃的な社会へと転落していく恐れがある。それは世界の歴史の中で繰り返されている。

 それに気づいて自ら転換を図ることは極めて難しい。それだけに、この新型コロナウイルス禍がそのきっかけになるのであれば、長い目で見て転機になることが考えられる。

 

---時局7月号P30-31への寄稿(2021.6.7)から---

       水谷研治の経済展望/問題点と対策

 

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