2021.6.1

コロナ対策の巻き戻し

   ―――各国で変化の兆し―――

                  名古屋大学  客員教授  経済学博士  

 世界中を席巻した新型コロナウイルスの猛威がどのような形で収束するか分からない。新たな変異が起き、さらに感染が広がる恐れもある。それを考えれば何時までも警戒を緩めることはできない。その一方で各国とも多くの人々の我慢が限界を超えている。それを納めるために懸命な救済策が続けられてきた.緊急事態であるから当然である。

しかし各国政府の必死の努力の結果として、急場をしのいできたものの、これほど緊急事態が長く続き、しかも終息の目途が立たないと息切れがする。政府の強力な対応が続けられなくなる。

 無理を続けるには体力が必要である。経済力がその支えである。経済力のない場合には早く限界を迎える。政府が救済のために資金を投入しても、国民が買うことができるモノが乏しければ、手にすることができない。物価が上昇してインフレになる。あるいは必要なモノを海外から買うために国際収支が赤字となり、支払資金が不足して国家経済が回らなくなる。

 救済策を続けることができなくなるだけではない。反対の経済引き締め政策を採らざるを得なくなる。そこまで追い込まれていなくても、それが予想されると方向の転換を図る必要がある。その動きが先進国の中でも出てきた。急増した財政赤字の圧縮を図る必要があり、その対策として増税が検討されている。増税が当事者に歓迎されないのは当然である。どのような増税でも全体の景気に悪い影響を及ぼす。

 分かっているだけに極力回避したいと考えない政府はない。しかし増税を先送りした場合の将来の国民の税負担を考えれば、できる限り早く転換を図る必要がある。その点は金融政策についても同様である。膨大な資金供給によって経済を支えてきた反面、異常な金余りが限界を超えてきているからである。

 これまで全世界の経済を下支えてきた各国の財政金融政策が転換していくと、その景気に対する影響は大きなものとなろう。その動きに遅れると取り返しのつかない事態になることが予想される。この動きには注目する必要がある。

 

---ISIDフェアネス-パーフェクトWebへの寄稿(2021.6.1)から---

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