揺れる新年度の経済見通し

---政策の下支えには限界 ---

 名古屋大学 客員教授  経済学博士 水谷研治

 新型コロナウイルスの影響が大きいだけに、いつ収束するかによって経済社会の状況は大きく変わってくる。

待望のワクチンが次々と誕生し接種が進んで早期に収束することが期待されている。 収束の方向が明確になれば社会全体の雰囲気が変わり、長く続いた陰鬱な空気が払拭され以前の活気が戻るであろう。人々の行動が元へ戻れば、それだけで景気は上昇する。

 一年遅れで規模も縮小するとはいえオリンピック・パラリンピックが人々の気分を盛り上げる。それを契機に景気が上昇していくと経済成長率は前年度のマイナスから大きくプラスに転じるであろう。

 

コロナウイルスの変貌

 ところが新型コロナウイルスについては諸説が入り乱れている。変異して無毒になり、あるいは感染力が低下して自然に収束するとの見方がある一方、逆に変異が悪い方向へ進んで深刻化するとの説まであり、方向性すらはっきりしない。

 仮に影響が長引くとすると経済への影響は深刻である。人々の活動制限が続き、興行や飲食店等で限界を超えるところが続出する恐れがある。オリンピック・パラリンピックどころではない。景気はさらに落ち込む可能性が出てくる。

現実の経済は両極端の間に落ち着くと考える以外にない。

 

深刻な世界各国の状況

無視できないのは海外の状況である。新型コロナウイルスの影響がわが国とは桁違いに大きい。アメリカをはじめヨーロパの主要国は悲惨である。他の多くの国々も同様であり、わずかに中国だけが回復に向かっている。ただし中国だけで世界経済を持ち上げることはできない。

わが国としては輸出を伸ばしたいところではあるが難しいであろう。各国の経済活動が戻らないと世界的な分業体制が支障をきたす。国際化の裏目が出ていて、その復活には相当な期間が掛かるであろう。落ち込んでいる輸出が本格的に回復するには世界経済の復活が必要であり、輸出が全体の景気を引き上げる力にはなりそうもない。

 コロナ対策として抑制されていた人々の行動は順次緩和され消費行動も戻ると期待される。これまで節約してきただけに購買余力は大きい。それがどの方向へ向かうかによって影響が違ってくる。何時から復活するかも重要である。業界によっては、それまで耐えきれないところもあるからである。

 消費需要が本格的に盛り上がるためには人々の収入が増えていかなければならない。現実にはコロナ不況の下で賃金の上昇率が上がらない。職を追われて途方に暮れる人が増えている。これらを考えると全体としての消費は明るいとは言えない。

 これらの状況は業種によって違いがあるものの、多くの企業は先行きを厳しく見ることになるであろう。景気に大きな影響がある企業の投資活動が積極的になるとは思われない。

 

政策頼りの限界

幸いにもわが国は長年にわたる先人の努力の結果として強大な経済余力がある。政府は金融・財政政策を総動員して深刻な影響を受けている人々と企業の救済を行うであろう。景気の下支え対策としても総力を挙げていくと思われる。お陰で景気の落ち込みも極端なことにはならないと考えられる。

ただし政府の緊急対策はすでに膨大な額となっており、限界をはるかに超えている。これ以上に政府が景気を持ち上げることは難しいと考えざるを得ない。

深刻な問題が国債残高の急増に表れている。世界中でも突出している極端な状況が何時までも許されることではない。緊急事態であるだけに当面は必要であり頼りにせざるを得ないものの、国債の返済は将来の国民が背負わなければならない重荷である。

財政赤字を失くすことは当然である。そしてこれまで作り上げてきた国債を償還する必要がある。それがどれほど深刻な事態をもたらすかを考えなければならない。目先の景気が重要ではあるものの、それ以後の長い将来のことも知らないでは済まされない。

 

---時局4月号 P26-27水谷研治の経済展望/問題点と対策への寄稿(2021.3.9)から---

 

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