2021.3.1

困難な長期計画

   ―――深刻な新型コロナウイルスの後遺症―――

        名古屋大学  客員教授  経済学博士  

 新年度に向けて各種の計画が立てられている。計画を作るためには環境の見通しが必要である。たとえば高度成長期には全体の経済が毎年1割も伸びたのであるから、それを上回る計画を立て施策を練ったものである。この30年間は基本的に経済水準が横這いになっている。それを前提として地道な計画になったであろう。今後も横這いの延長を前提として考えるのが普通である。

 目先は新型コロナウイルス次第で大きく変わる。ワクチンもできて終息に向かうと言われていたものの、新たにコロナウイルスの変異が表れており、楽観はできない。その猛威はわが国を含む東アジア以外の全世界に広がっている。特にアメリカやヨーロッパの主要国の惨状は凄まじく、経済水準が大きく落ち込んでいる。

 通常、一時的に落ち込んだ分は現象が収まれば元へ戻ると考えられる。その後は落ち込んだ分まで反発するのが通例である。したがって長期的に見れば、心配することはない。ところが今回のコロナウイルスの場合はあまりにも被害が大きく広範囲に及ぶため、簡単に元へ戻りそうもない。都市の封鎖などによる経済社会の混乱によって生活できない国民を救うために各国の政府は財政政策と金融政策を総動員して対応せざるを得なかった。

 それに基づく膨大な借金を長期にわたり削減していかなければならない。それが大きな重荷となって全世界の経済の下押し要因となる。自国の苦境を乗り切るために自国第一主義になるのはアメリカだけではない。世界経済は従来とは逆に縮小する恐れがある。

 これらを考えると長期的な経済水準の下降を警戒せざるを得ない。それを前提とすると、将来の計画は防衛的になるであろう。それが全体の雰囲気になると経済社会はますます委縮してしまう。

本来なら国家が率先して打開を図るべきである。そのための政策手段が整えられてきたはずである。ところがそのために我が国をはじめ世界の各国は財政政策と金融政策を新型コロナウイルスのために使い果たしてしまった。この現実を冷静に受け止める必要がある。もはや国家を頼りにすることは難しいと考えざるを得ない。

 

---ISIDフェアネス・パーフェクトWebへの寄稿(2021.3.1)から---

 

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