2021.2.1

世界経済の回復は至難

   ―――緊急対策の後遺症は深刻―――

      名古屋大学  客員教授  経済学博士  

 猛威を振るった新型コロナウイルスもいずれは収束する日が来るはずである。各種のワクチンができており、ウイルス自身が変身して無毒になったり、感染しなくなることもあるようである。大きな被害が出て落ち込んでいる世界の各国は順次元へ戻ると思われ、世界の経済活動が復活することが期待されている。

 しかし現実の被害はいずれの国も深刻である。アメリカをはじめヨーロッパの主要国が軒並み壊滅的である。新興国として脚光を浴びていたロシア、ブラジル、インドも同様であり、多くの発展途上国もコロナの猛威にさらされている。そのため世界経済はかつてないほどの大きな落ち込みとなっている。

 例外は中国である。いち早くコロナ禍から脱却して経済成長率は上昇している。しかし中国だけで世界を支え、引き上げることを期待することはできない。中国を含めてアメリカやロシアなどの大国はいずれも人種問題など国内に深刻な問題を抱えており、自国中心で社会の安定を最優先にせざるを得ない。

各国ともコロナで深刻な被害を受けている人々が急増し、社会不安が高まっており、各国の政府は総力を挙げて救済に当たっている。そのおかげで景気の落ち込みがこの程度で止まっている。

そこで利用されているのが中央銀行からの大量の資金供給と赤字財政である。緊急対策であり必要ではあるものの、これほどの大盤振舞いをいつまでも続けることはできない。

景気が回復に向かうと中央銀行は資金の回収を図り、政府は財政赤字を圧縮せざるを得ない。積み上げた大量の国の借金を返済するため財政の赤字を失くして黒字にする必要がある。それを世界の大部分の国で断行しなければならない。それは大きな景気下押し要因になる。しかも膨大になった国家債務を削減するためには長期間が必要であり、景気への悪影響は長期に渡るであろう。

経済政策として効果があるとされる金融政策と財政政策が行き過ぎて逆転せざるを得ない現実を無視することはできない。それが全世界に共通する事態は極めて深刻である。

 

---ISIDフェアネス・パーフェクトWebへの寄稿(2021.2.1)から---

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