世界経済の復活は難しい

---各国の長期的な課題は重大 ---

           名古屋大学 客員教授  経済学博士 水谷研治

 

 国内の景気が思わしくないときには海外に救いを求めたくなるのはどの国でも同じである。世界経済の興隆はだれもが念願している。 ところが現実には世界の主要な国々の経済が大きく落ち込んでいる。一時的な落ち込みが大きければ大きいほど回復も大きくなるのが通例である。しかし各国の状況は厳しいと考えざるを得ない。

 

国家分断の危機アメリカ

 最大の経済大国アメリカの全世界へ及ぼす影響は大きい。そのアメリカは新型コロナウイルスの最大の被害国である。大統領選挙の異常なまでの両陣営の確執が簡単に収まるとは思われない。そこへ景気の落ち込みが社会の混乱に輪をかけている、もはや他国を顧みる余裕はなく、自国中心の政策は続くと考えざるを得ない。

 アメリカの経済力はすでに何十年も前から下降を続けてきた。それでもアメリカは膨大な輸入をしてきている。その恩恵を世界中が長年にわたり受けてきた。おかげで成長した国々が世界中から輸入をするために、世界の経済は急速な拡大を続けることができた。

この流れが反転する恐れがある。それが今回の新型コロナウイルスの被害と大統領選挙の後遺症によるアメリカ社会の混乱によって、現実のものになると影響は甚大である。経済面だけではなく、世界の力関係が不安定になり、それが世界の経済に悪影響を及ぼす。そして一旦この流れになると元へ戻ることは難しい。従来が異常なのであり、正常に向かうと考えられるからである。

 

大きな役割を果たしてきた中国

 中国経済の発展は目覚ましい。その過程で世界中から大量の輸入を行い、生産力を増大して輸出をしてきた。それが世界経済の拡大につながったことは言うまでもない。中国だけで世界経済を引き上げるだけの力はないものの、経済力は急速に強化されており、中国経済には大いに期待される。

すでに中国は今回の新型コロナウイルスの影響をいち早く克服して経済を回復させて来ている。ただし経済成長率は世界でも群を抜いているものの、目標としてきたところにはいかないであろう。高度経済成長を続けてきた中国にとって成長率が鈍化すると不況感が広がる。政府は懸命に景気振興に努めると思われるが、それでも国内の経済情勢の悪化から国民の不安が高まる恐れがある。

大国は国内には各種の難しい問題を抱えている。地域が広大で、人種も宗教も考え方も異なる国民を統一することは難しい。各種の不満や矛盾を収めるためには経済的な豊かさが欠かせない。景気が悪化し、それが続くと各所で不満が表面化しかねない。抑え込むためには強力な力と体制が必要になる。それを維持するためには他国と約束したことを反故にすることも出てくる。大国の経済的な落ち込みが国際関係の不安定要因になりつつある。

 

膨大な国債が各国の長期的な負担

 アメリカと同様に新型コロナウイルスの影響が深刻なヨーロッパの惨状も凄まじい。人々の移動制限によって経済活動は大きな影響を受けている。多くの発展途上国も同様である。いわゆる資源国は世界経済の落ち込みによって需要が激減し危機的な情勢が続いている。いずれの国も自国民の救済に奔走していて自国第一主義にならざるを得ない。世界的な交流が妨げられ経済活動が復活する目途が立たない。

自国民の生活維持のために各国政府は懸命である。中央銀行の協力を得て膨大な国債を発行し救済に当たっている。それによる下支えによって国内の治安が維持されている各国にとって救済措置を止めることができない。しかし国債の発行が引き続きできる国ばかりではない。悲惨な事態に追い込まれる国が増えそうである。

各国が積み上げた膨大な国債が今後それぞれの国にとって長期間にわたり重荷になる。いずれの国も危機的な情勢が終わると国債の償還を急がなければならない。それが長期にわたる景気抑制要因になる。

世界経済が以前のような高い成長力を取り戻すことは難しいと考えざるを得ない。

 

---時局2月号P28-29への寄稿(2021.1.7)から--- 水谷研治の経済展望/問題点と対策

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