世界経済は元へ戻れない

---生産体制に必要な国内回帰 ---

 名古屋大学 客員教授   経済学博士 水谷研治

2020年は新型コロナウイルスの年として世界の歴史に残るであろう。

中国から始まり全世界を新型コロナウイルスが席巻している。猛烈な勢いで感染者が急増する国はもちろんのこと、早々に克服した国も警戒の手を緩めると感染者が出るため、警戒を続けざるを得ない。

対策として人々の自由な行動を制限するのであるから、それに伴う影響は甚大である。人々の日常生活が成り立たない。もちろん経済活動も制約を受ける。それに耐えられなくなって制限を緩めると感染者が増加する。収束の見通しがつかないままに年が暮れそうである。

新型コロナウイルスについては依然として分からないことが多い。

当初からいろいろな説が出ていた。多くの学者が経験から見解を披歴するものの、しばらくすると反対の意見が現れる。感染者数が国によって大きく違っている。防疫体制の違いや政府による力の入れ方が議論になる一方、社会生活の風習の違いが取りざたされている。今後もさらに新しい見方が出てくるであろう。

ワクチンが頼みの綱と言われるものの副作用が心配されている。安全性を検証するためには何か月もかかるらしい。苦労の末にワクチンが出来上がった段階でウイルスが変異している可能性があると言われると途方に暮れる。現状が当分の間続くと考えざるを得ない。

国際化の反動 

各国とも国境の検疫に神経を使っており、国をまたぐ移動ができない事態が続くであろう。通信機能の発達によって交流の制約は小さくなっているものの、人の移動が制限されている影響は大きい。長年にわたり世界は自由な交流によって経済的な繁栄を続けてきたと考えられる。それが逆転するのである。

 かつてのように超大国があり、世界のために大きな犠牲を厭わなければ、少なくとも経済的には心配することはない。現実には、かつての超大国アメリカにその力は無くなっており、逆に台頭する中国に対する対抗心を高めている。それが世界的な交流をさらに縮小させるであろう。

 急速に発展してきた中国は大きな影響力を持ってきたものの、かつてのアメリカの代わりができるわけではない。ヨーロッパは混沌とした状態が続くと思われる。資源国を含め多くの発展途上国は独自で発展を目指すことは難しい。

生産体制の再構築が必要

 人、物、金の国際化が進み、自由貿易と国際分業体制の進展によって経済発展の恩恵を受けてきたわが国としては大きな転換を迫られることになる。

われわれは長年にわたり国際化の動きに合わせ、それに乗り遅れることがないよう懸命に努力を積み重ねてきた。海外へ販売網を拡充することから始まり、海外へ売れる品質の優れた製品の開発に努力を重ね、海外での生産体制の確立という極めて困難な目標に向かって多くの企業と人々が苦労して、やっと今日へ到達したのである。

 世界の経済が沈滞すればわが国からの輸出は減退する。国内の多くの産業への打撃が続くと考えざるを得ない。国際分業が進み、今や国内で作っていないものも増えてきた。それらが自由に輸入できるとの前提が崩れてきた。国際分業が進み重要な材料や部品が自由に入手できない事態が続くとすれば、生産体制を作り直さなければならない。

 我が国では長年にわたり過剰な生産力をもとにして需要の振興に力点を置いてきた。需要に比べて生産力が過大であることが問題とされ、国内の生産力の増強には力を入れてこなかった。現実に起きているのは産業の空洞化である。それが我が国の経済力の低下となっていると考えられる。

 これを機会にわれわれは経済の基本について考え直す必要がある。生産力を高めることがいかに重要であり難しいかを考えなければならない。それには国民が長期間にわたり地道な努力を続けることが必要である。

 

---時局12月号20.11.7への寄稿(2020.11.7)から 水谷研治の経済展望/問題点と対策No.15---

 

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