危機への対応力

ーー天災への対処と備えーー

 名古屋大学 客員教授 経済学博士 水谷研治

地震、津波、台風、大雨などの天災は一挙に大災害をもたらす。それと新型コロナウイルスの場合とは違いがある。天災とはいえ、発生から蔓延するまでにある程度の期間があり準備ができる。

その点で世界を席巻した新型コロナウイルスの影響を食い止めた台湾、韓国とともに日本の成果に世界の注目が集まっている。第2波、第3波がどのような姿で出てくるか分からないため、まだまだ結論には至らないが、欧米先進国から発展途上国までの惨状と比べると奇跡的である。

 当初は日本の対応が遅れて不徹底なために大変な事態になると言われることが多かった。各国とも強力な規制で罰則まで設けて国民に強制しているにもかかわらず感染が急増した。それに比べればわが国の政府は国民に対して要請をしているに過ぎない。罰則はない。それでも、政府の要請を国民も企業も受け入れて守ってきた。日本人の公共を重んじる考え方と自制心が支えになっているのではなかろうか。

 問題は緊急で要請された対策を完全に緩めることができない点である。「3蜜」の回避に伴う問題は深刻である。旅行関係社だけではなく、飲食店など広範囲にわたり甚大な影響を受け、従事する人々が収入を絶たれる。在宅勤務を推奨され、サービス産業だけではなく。社会全体として機能しなくなってくる。

 

緊急対策には全力で臨む

状況が長引いて深刻な事態になってきた。政府は対策に総力を尽くしている。直接影響を受けている人々の救済が求められている。雇用を維持するためには企業を救う必要がある。国難に対処するためには国家として総力を挙げて対応しなければならない。目前の破綻を回避するためには取りあえず資金が必要である。金融機関を通じて、さらには政府や中央銀行が支援するのは当然である。各種の救済資金を政府が直接提供している。緊急事態への大規模な対応のためには膨大な資金が必要である。大量の国債を発行するのは当然である。国債の償還は国難を克服した後で全国民が総力を挙げて対処する以外にない。

大変な事態であるからこそ政府に対して、きめ細かく手厚い施策を求めたいところではあるが、それは無理である。政府には人手もなければ資金もないからである。国全体のことは政府の役割であるが、個別の問題は国民や企業が対応する必要がある。

 

問われる平時の準備と覚悟

 天災や人災は何時起きるか分からない。その準備をしておく必要がある。国家の場合は、緊急時に備えて予備費を増額するとともに、大量の国債を発行できるように、平時には国債残高を最小にしておく必要がある。企業は緊急時に備えて体力を蓄えておかなければならない。借金を減らし内部留保を厚くしておくことが必要である。国民も同様である。貯蓄が緊急時に身を守ることになる。

 そのためには長い間の努力と我慢が要請される。資金を蓄積するためには、まず懸命に働かなければならない。そして手にした成果を使ってしまうのではなく、貯め込む必要がある。政府も企業も国民も同じである。

資金を使わなければモノが売れなくなり景気は下降する。それが分かっているだけに、長年にわたり、我々は反対の行動を奨励してきた。築き上げてきた膨大な供給力を利用して景気を引き上げるためには需要を押し上げる必要がある。消費需要を増大するために貯蓄よりも消費が奨励され、各種のローンが利用されてきた。企業は内部留保を増やすのではなく、賃上げや配当に資金を使うことが持てはやされた。全体の需要を拡大するために政府に大量の国債を発行させてきた。

その結果が今日の状況である。人々は貯蓄が乏しいと収入が無くなれば生きていけない。企業は内部留保がなければ売り上げの減少でたちまち破綻に追い込まれる。最後のよりどころは政府である。政府は大量の国債を発行して国を守らなければならない。その返済のために将来にわたり国民がどれほど悲惨な目に合うかを考える必要がある。

我々は方向を転換しなければならない。それが需要を縮小させ景気を悪化させることは明らかである。それを覚悟の上で長期にわたり努力を続けることが不可欠である。

 

---時局10月への寄稿P30-312020.9.7)から--- 水谷研治の経済展望/問題点と対策

 

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