世界的麻痺が要請する経済指針の見直し

名古屋大学 客員教授 経済学博士 水谷研治

医療崩壊の次なる危機は

新型コロナウイルスの感染者が増え死者が増加する過程では多くの患者が病院へ押しかける。一方、病院の関係者も罹患して一緒に働いていた医師も看護師も出勤できなくなると、病院が成り立たなくなるーー-。医療崩壊である。

災害に際し最後のよりどころは国と政府である。各種の救済の要望が集中する。ところが役人も罹患して人数が減ってくる。過重労働が悪循環を引き起こす。社会の基幹部門が危機にさらされ機能しなくなる。

感染を止めるためには、人の接触を減らす必要がある。外出を避け家に蟄居することが求められる。庭付きの豪邸に住む人は別であるが、マンションと称する3間程度のアパートに住む多くの人は閉じこもりに長くは耐えられない。

人が集まることを避けなければならないと、各種の業界に休業が要請される。たとえ要請がなくても外出自粛で顧客が来なければ商売が成り立たず、多くの商店やサービス業はやっていけない。人が集まるのを止めろと言われても、それでは多くの職場が成り立たない。業務を停止せざるを得ない。

多くの業界で給料を支払うことができなくなる。収入がなくなるためにモノを買うことができなくなる人が急増する。消費が落ち込む。売れないものを作り続けることはできない。多くの産業に影響が及ぶ。悪循環になる。

一方、操業を停止する企業が製品を提供できなくなると、それを部品としている製品を作ることができなくなる。

多くの企業が倒産あるいはその危機に遭遇する。

耐えられず見切り緩和

 大量の資金を出して国民や企業の苦境に対処しているのはわが国ばかりではない。多くの国で巨額の国債を発行して救済に懸命である。ただし国のできることには限界がある。金融政策や財政政策でどれほどきめ細かく救済を実施しても、膨大な経済活動の細部にまでは力が及ばないからである。

 感染防止のために国民に対してわが国のように要請するだけの国は少なく、罰則を設けて厳重に規制する国が多い、早くから自宅蟄居を命じられた国民も企業も耐えられなくなっていき、危険を承知で緩和へ動かざるを得ない国が増えてきた。しかし第2波、第3波が心配されているだけに、本格的に元へ戻すことは難しい。それを承知しながらも、緩和しなければ社会がもたなくなってきているのである。

 新型コロナウイルスの脅威が完全に克服されて社会・経済の活動が元へ戻るのは相当先になると考えざるを得ない。

見直しが必須な目先利益第一主義

影響が世界的に蔓延し、各国の国境閉鎖にまで及んでいることもあって、全世界的な取引縮小が続いている。しかも世界の経済に大きな比重を占めるアメリカ中国ヨーロッパが甚大な被害を受けているのである。

飲食店などの中小企業だけではなく、世界的な大航空各社も存続が危ぶまれている。経済活動の萎縮で失業が急増している。収入減のために消費生活が戻る見込みがたたない。最終的にモノが売れなくなれば、企業は生産活動を本格化させることができないのは世界中共通である。

もちろん中には需要が旺盛な部分もある。それらの企業は大量に生産して大いに儲けられるはずである。ところが、その前提である部品などの調達ができないことが問題になる。国際的な分業が進んできた結果として、各国の生産活動が本格的に復活しないと部品の調達ができない。

そのようなことは長年にわたり想定されていなかった。全世界的にモノが豊富に余っている状況が続いたため、「モノが過剰にあり、いつでも自由に買うことができる」との前提で、もっぱら効率性だけを最優先にする行動が一般的になってきていた。

根本から考え方を変えなければならない。危機に備えることが重要なことは個人も企業も同じである。将来の緊急事態を想定した貯蓄や内部留保は最低限の基本である。あまりにも「危機管理」を軽視し、目先の利益を最優先として追求してきたことの反省が必要である。

 

---時局78月合併号への寄稿P34-3520.6.25)から---- 水谷研治の経済展望/問題点と対策

 

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