株価は景気の先行きを示すか?

   ―――景気の回復力に疑問―――

2020.6.1    名古屋大 客員教授  経済学博士 

 株価は最も重要な経済指標の一つである。株価が景気の先行きを予想して早めに動くからである。株式が大きく上下すれば、それに応じて将来の景気が上下すると考えられ、企業も人々も対応して行動するため現実にも景気へ影響を及ぼす。

景気の動向を気にする政府は株価に神経質にならざるを得ない。大きく下落する兆しがあれば、対策を講じて株価の維持を図るのは、どこの国でも同様である。そのための施策が次第にエスカレートしてきた。大量の資金を供給し金利を下げて株価の下支えをしてきた。本来は禁じ手と言われた方法も使われている。金融政策は中央銀行が政府から独立して行うことになっていたはずである。それが政府により、景気下支えのために利用されるようになって久しい。結果として株価が現実の経済水準から離れて高くなっているように思われる。

株価は3月に大暴落した後、大きく戻した。株価が景気の先行指標であるなら景気の先行きを心配する必要はない。しかし今回景気が下降しても、やがては戻すと安易に考えることは難しい。

新型コロナウイルスの経済への影響は一過性のものとは考えられないからである。感染劇が短期間で終息するとは思われず、過去の例からは第2波も第3波もあり、収束には2年以上かかるとの予測もある。この間、社会の活動が完全に元へ戻ることは難しいであろう。経済の動きが低迷すると働く場が減り、失業者が増える。職を失うと収入がなくなる。買うことができないと個人の消費が減り、モノが売れなくなる。景気がさらに悪化し、倒産が増え失業者が増加する。悪循環である。

 政府は懸命に救済措置を採るであろう。しかし大きく落ち込んだ景気を戻すことは容易なことではない。それは経済を担う人の考え方が変わるからである。今回の大変な事態を経験した人も企業も危機に対応する準備の必要性を痛感しているはずである。貯蓄や内部留保の重要性を考えれば以前のような支出態度へ戻ることは難しい。景気の本格的な回復は多難と思われる。

 

---ISIDフェアネス-パーフェクトWebへの寄稿(2020.6.1)第210回から---

 

inserted by FC2 system