明るさの少ない二〇二〇年度の経済

    ---ピックの影響力は前回より小---

   名古屋大学 客員教授  経済学博士 水谷研治

盛り上がるオリンピック熱

 オリンピック・パラリンピックの盛り上がりが加速してきた。出場する選手と関係者はもちろんのこと、それを支える人々や施設の関係者も本番に向かって準備を急がなければならない。

観戦する人々が全国から、いや全世界から集まってくる。宿泊施設の増設が間に合うか心配である。多種多様の話題がテレビや各種のメデイアで取り上げられ、増幅されて国中がその渦に巻き込まれる。

 その経済効果は莫大なものになるであろう。参考になるのが前回の東京オリンピックである。オリンピックに間に合わせるために東海道新幹線を開通させ、東京の高速道路網を作り上げた。新しい競技場など多くの施設が建設された。これらの公共投資が景気を大きく引き上げることになった。オリンピックをテレビで見ようと高価なテレビを購入する家庭も少なくなかった。消費は盛り上がり景気が加速した。

 作られた社会資本がその後の日本経済の長期的な発展に大きな役割を果たした。その反面、大型の公共投資が一段落し、宴の後で人々の財布の紐が固くなると、景気は一挙に下降して大不況に突入することになった。

 今回もその傾向は避けられないものの、前回に比べると、経済効果は小さいと考えられる。夏に向かって景気は上昇するものの、それを契機に景気が加速するのではなく、年度の後半からは反落することが予想される。

低迷する世界の経済 

この間に海外要因が良くなれば企業は活況を維持することができる。それを期待したいところであるが難しいと思われる。

主要国の国内政治情勢が混沌としている。アメリカと中国、イギリスとヨーロッパなど相互の摩擦が続くであろう。その根底には各国の経済悪化が放置できない事態になっていることが考えられる。しかも国際間の摩擦が相互の貿易を縮小させて景気を一層悪化させる。それが、その他の国にも波及するため世界経済は当分の間、低迷が避けられないであろう。

わが国の輸出環境は好転が見込みにくく、企業は将来に向かって積極的になれない。企業の守りの姿勢が景気を悪化させる。

 景気が下降すると社会の雰囲気が暗くなり、それまで隠れていた問題点が表面化する。社会全体が不安定になり企業も人々も守りの姿勢を強めざるを得ない。それが景気を一層悪化させる。悪循環になる。

 そのような状況を放置しておくわけにはいかない。事前に阻止する必要がある。それが政治の役割であり、経済政策によって景気の維持が図られると考えられる。金融政策と財政政策が発動されるであろう。

 金融政策として日本銀行が資金を大量に供給し金利を下げることによって企業活動を活発にしようとする。しかしその効果は小さいであろう。すでに民間では資金が大量に余っており、そこへさらに資金が供給されても何の効果もないからである。為替が円安になるための影響があるものの大きな力にはならないと考えられる。

財政政策への期待と懸念

 頼りになるのは財政政策である。内容は公共投資や社会保障費の増額、災害対策費の上乗せなどの支出の増加である。減税も加わるかもしれない。不足する財源は赤字国債の増発で賄うことになろう。

政府が緊急事態と考えれば大幅な赤字財政を発動する可能性が高い。おかげで景気が大きく落ち込むことはないであろう。ただし現在すでに財政赤字額は膨大であり、それをさらに増加させるには限界がある。そのため景気を大きく引き上げることまで期待することはできない。

 幸か不幸か我が国の場合は諸外国とは大きく異なり、財政赤字を増やしても当分の間は何も問題が起きない。それだけに赤字財政による景気の維持に対しては、ほとんどの人は賛成であり反対する意見は極めてまれである。

 しかし莫大になった借金の金利支払いと返済は将来の国民にとって大きな負担になる。その極めて深刻な問題をより大きくして将来に残すことになってしまう。

 

---時局4月号への寄稿(2020.3.7P34-35から--- 水谷研治の経済展望/問題点と対策

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