2020.3.1

異常な金余りは続く

   ―――金融政策の正常化は困難―――

                  名古屋大学  客員教授  経済学博士  

異常な事態が起きると注目を集める。しかし、それが長期間にわたり続くと平常のことになり、それを前提として社会が動くようになる。

 我が国で金余りになり始めて久しい。それが加速して異常な事態となったのは日本銀行が金融政策で大量の資金を供給していることが一翼を担っている。膨大な資金が民間部門に滞留し、その運用に多くの企業や人々が困っている。お金の値打ちを示す金利は極端に低下し、長期の指標とされている10年もの国債の金利がマイナスになり、それが続いている。

 その効果が問題である。大量に資金が提供されれば、それらが使われて景気が良くなると期待された。ところがすでに過剰になっているところへ、さらに資金が投入されても、金余りが酷くなるだけで効果は上がらない。その一方で過剰な資金がもたらす各種の異常な事態が加速することになる。

 極端な異常事態を転換させなければならない。それには膨大な資金供給を抑える必要がある。金融政策を転換するのが最初である。

しかし方針の転換は容易なことではない。金融政策の効果は極めて限られているものの、まったくないわけではないからである。金余りで円貨の価値が下がれば、外国為替市場で円が売られて円安になる。それが我が国の輸出に有利になり、多少とも景気を引き上げる。もし資金の供給が減って円資金の値打ちが上がり金利が上昇すれば、外国為替市場で円が買われて円高になる。それが景気を悪化させる要因になる。

現在、少しでも景気を引き上げたいと考えている政策当局としてはなかなか踏み切れない。面子もある。今後、多少の手直し程度の政策変更が行われるとしても、それによって事態が大きく変わることはないであろう。

結果として異常な金余りは続くと考えざるを得ない。長く続いた超緩和の金融情勢の結果として生じている歪みを縮小することは難しいと思われる。

 

---ISIDフェアネス-パーフェクトWebへの寄稿(2020.3.1)から---

 

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