赤字予算の功罪 

---今は天国、将来は地獄---

 名古屋大学 客員教授

          経済学博士 水谷研治

 

空虚な予算審議

 施策を実行するためには資金が必要になる。必要な資金を予め準備しなければ計画を実行することができないため予算は重要である。

 国家の予算は毎年国会で決めることになっている。ほとんどの政策が予算に関連する。予算が通らないと国家の運営ができないために大変な事態となる。政府としては期限までには予算を成立させなければならない。それを阻止しようとして野党が画策する。

現実には国会の議論が枝葉末節に終始し、基本的な財政赤字の問題が本格的には取り上げられないきらいがある。

 

政治のしわ寄せで財政は赤字 

国民が政府に要望することは多い。弱い人々を救うべきである。災害対策としてやるべきことは数限りない。国際社会で独立を維持するために最低限必要なこともある。膨大な資金が必要になる。どこかで節約しなければない。しかし実際には国民の身近な要請を通すために議員が活躍する。

必要な資金は税金で賄わなければならない。ところが国民は増税には反対である。その意向を与野党の議員が声高に主張する。

本来は支出と収入は合致させなければならない。しかし、大方を満足させるためには財政支出を増やし、一方では増税は避けたい。不足分だけ財政が赤字になり、赤字分は国債を発行することになる。結果として赤字財政が国民の総意として毎年承認されている。

 

赤字財政で支えられる景気

 国家財政が赤字になって国の借金が増えても何の支障もない。逆に喜ばしいことばかりである。政府への要望は実現し、そのために必要な資金を国民が税金として負担しなくて済むからである。

 その結果、国から支出される資金で人々も企業も潤う。本来は納めなければならない税金を出さないため、その分も豊かになる。より多くの資金が使われて企業は売り上げが増加し景気が良くなる。良いことずくめである。

通常、収支の赤字は許されない。収入よりも余計に支出することができないからである。ただし不足する資金を借りてくれば済む。現実に国は膨大な国債を毎年発行して不足する資金に充てている。

国債の発行によって資金が吸い上げられるため国内で資金が不足すると考える向きもあるが心配ない。資金が大幅に余っているからである。それはわが国が供給過剰で深刻なデフレ経済が続いているためである。

経済成長が期待できないため企業の投資意欲が乏しく、資金需要が低調である。その一方、大量の資金が民間へ流入している。国際収支が大幅な黒字を続け、海外から大量の資金が流入している。景気振興のために政府が減税する一方で支出を増加させ民間へと膨大な資金を放出している。そのうえ日本銀行が金融を緩和させるために大量の資金を供給している。その結果として資金は民間に溢れて金利が極端に下がる異常事態である。

この状況が続く限り問題は起きない。しかし将来は普通の経済状態になり、一気に問題が表面化する。それが相当先になるため、財政は大幅な赤字を続けるであろう。

 

将来の国民の負担

 経済が極端なデフレから順次普通の状態になりつつある。正常に戻れば金利も正常化する。国債の利払いが増加し、資金不足が加速する。そのため国債の発行を上乗せすることが必要になり、それが金利の支払負担の更なる増加につながる。悪循環になり、いわゆる借金地獄へと転落する。最終的には、その時の国民が大増税で賄う以外にない。

問題を回避するためには国の借金を減らす必要がある。そのためには、まず借金の増加を阻止しなければならない。すなわち財政赤字をなくすことが必要である。借金を減らすためには黒字にしなければならない。黒字分だけしか借金が減らないからである。それがどれほど深刻な事かは容易に想像ができる。

それだからこそ財政再建を皆が避けている。そして先送りにしているのである。その結果として現在は景気が維持されている。その代償は将来の国民が背負うことになる。それは想像ができないほどの悲劇と思われる。

 

---時局3月号への寄稿(2020.2.7)から--- 水谷研治の経済展望/問題点と対策

 

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