金融政策の効果は限定的

      名古屋大学 客員教授  水

 

注目される金融政策

 経済の行方に影響がある金融政策にテレビや新聞の報道が熱を上げるのは当然である。金融が引き締められるか緩和に向かうかによって正反対の効果が出る。どの程度の強さかになるかと共に政策がいつ実行されるかに関心が集まり、多方面の予想が華々しく展開される。

 その影響は一国に留まらない。そのため日本銀行だけではなくアメリカやヨーロッパの中央銀行の動きが話題になる。特に目立つのが金融政策当局と政府との葛藤である。将来にわたる経済の動向を心配する中央銀行と当面の景気の維持向上を目指す政治との根深い対立は昔から変わらない。それが一層際立ってきたのはアメリカのトランプ大統領の動きである。あからさまな金融政策への介入が行われ、その影響が全世界に及んでいる。今や中央銀行の総裁ならびに政策決定に携わる各委員の意向だけではなく、トランプ大統領の発言に一喜一憂する事態となっている。

 

景気政策の一環

 金融政策は景気対策として重要視されてきた。近年、主要国の中央銀行は景気振興のために金融を緩和させ金利を引き下げてきている。

その典型が日本銀行である。デフレ脱却を目指し、物価の上昇率を二パーセントまで引き上げることを目標にして積極果敢な金融緩和政策を続けてきた。大量の資金が中央銀行から供給されれば、国内の購買力が上昇し、需要が増加して景気が良くなり、物価が上昇するとの信念が基になっている。

ところが目標であったデフレの脱却には程遠い状況が続いており、今後も好転する気配がない。異常なまでの極端な金融緩和策が功を奏していない。

逆に悪い面が増えてきた。大量の資金を供給するために膨大な国債を購入し続けた結果、多くの国債が日本銀行に保有される異常な事態になっている。国債だけでは不十分と投資信託を大量に購入し続けたため、日本銀行が事実上の大株主になる会社が出てきた。

膨大な資金供給の結果、金余りがさらに進み、その副作用が目に余るようになってきている。長期の標準金利と考えられる一〇年ものの国債の金利がマイナスとなっている。どのように考えても異常である。

 

金余りの下では効果ない

 大量の資金を供給した場合の効果が全くないわけではない。金融市場で金利が低下し、為替相場に影響を及ぼす。海外との金利差から円相場が下落する。その結果、輸出産業が利益を得る。輸出が増え輸入が減って国全体として景気が良くなる。そのような効果が出ているにもかかわらずデフレ脱却には程遠いのである。

 それは本来の目標とされている投資の増加から本格的な景気の上昇につなげることができないからである。

 金融政策が効果を発揮するのは資金が貴重な場合である。現実には異常な金余りが続いているために資金の値打ちはない。余っていても使う人が居ないために余ったままになっている。そこへさらに資金が投入されても、余計に資金が余るだけである。

 このような状況では金融政策の効果は出ない。一方で極端な金余りの副作用が大きくなってきた。多くの金融機関の経営が成り立たなくなっている。資金の無駄遣いから来る体質の悪化が将来大きな問題となって来るであろう。

 それにもかかわらず現在の超金融緩和策を転換することは難しそうである。それは僅かながらも効果があるためである。すなわち金利が下がることや為替相場で円安になることが多少とも景気を下支えすることにつながっている。それを転換することのマイナスの効果はたとえ僅かでも好ましくないと思われてしまうからである。正常化のためには痛みを伴う。それを我慢できないために、異常事態を転換することが難しいのが悲しい現実である。

 

---時局12月号P36-37への寄稿(2019.11.8)から---

水谷研治の経済展望      ---問題点と対策∸--C 

 

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