世界経済は低迷期へ

               名古屋大学客員教授 経済学博士 水谷研治

情報に一喜一憂

 トランプ大統領の呟きに世界中が右往左往している。影響が大きいのであるから当然である。

極端と思われる政策が実施されるため、対象となる当事者は大打撃である。当然のように交渉が行われる。その結果、政策が取り止めになることもある。心配していたことがなくなる。ところが問題が収まることなく蒸し返され、そのたびに関係者が右往左往する。

現実に各種の相場が大きく動く。市場関係者が対応に追われることになる。直接関係する人々や業界にとっては死活問題に繋がる。問題が大きいため関連するところが多く、それらの動向が報道によって増幅される。

世界中が大騒ぎしているものの、それらが空騒ぎになることを誰もが願っている。トランプ大統領が交代すると収まると期待する声もある。しかし異常とも思われる発言が次々に出てくる背景にはアメリカの経済力が著しく低下している面があると考えられる。

 

米国が支えてきた世界経済

経済が拡大するためには売れなければならない。買い手が必要である。通常、買い手は売ることによって資金を手に入れる。売る以上に買うためには金を貯めていなければならない。

第二次大戦後、世界中の富を一手にしていたアメリカは世界中から大量の輸入をして世界経済の成長を支えてきた。

どれほどの金持ちでも資金を使い果たせば、それ以後は自分で稼ぐ分までしか買うことができない。ところがアメリカは不足する分を借金によって調達し、莫大な輸入を続けた。おかげで世界各国は膨大な輸出を続けることができ、世界経済は長年にわたり高い成長を続けてきた。

その恩恵は計り知れない。経済的な繁栄が人々の幸せにつながるからである。誰もが望むことであり、多くの人々が満足して平穏な情勢が続く。

その恩恵に最も浴したのは中国であろう。中国経済が躍進を続けた。中国は世界中から資源を輸入し、資源国の繁栄をもたらしただけではない。アメリカをはじめヨーロッパからも東南アジアからも我が国からも膨大な輸入を続けた。おかげで世界経済は高い成長を続けることができた。

高い経済成長に慣れ、それが将来も続くと思われていた社会で経済成長率が落ちると人々の不満が高まる。それが抑えられないと国内政治が収まらなくなる。それが外交にも影響し、世界情勢の変動が直接間接にマイナスの影響となって現れる。

 

ドルの役割終焉への序章

 強大になった中国とアメリカとの覇権争いが熾烈になってきた。米中関係は長く尾を引くと見られている。もちろん中国だけで世界経済を成長させる力はない。むしろ世界経済の成長が鈍化することの悪影響を中国も被ることになろう。それが中国国内の政治的な安定に悪影響を及ぼす恐れがある。

もはやアメリカが従来のように膨大な貿易赤字を出し続けることが困難になってきた。アメリカが多額の赤字を続けることができるのは、海外から莫大な借金をすることができるためである。それはドルが唯一の基軸通貨であるお陰でもある。

アメリカのドルに代わるためにと作られたユーロが力強さを欠くため、当分はアメリカのドルが基軸通貨の役割を担うことになろう。そのためアメリカの膨大な貿易赤字が続き、当面は世界経済が急落する恐れはないと思われている。

しかし、このままの事態が続けば、やがてはドルの役割が変わることになるであろう。世界的な大変動になる。それよりも早い段階でアメリカは貿易の赤字を急減させなければならない。すなわち世界中からの輸入を大幅に削減せざるを得ない。その結果、世界経済は急落する。そして元へ戻ることはないと考えられる。

 

---時局11月号P34-35への寄稿から---水谷研治の経済展望---問題点と対策---B

 

 

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