日本経済―――22世紀への2つの道

 ---将来の為に我々が献身を---

---望洋会ホームページの最終に寄せて---

2018.12.8

   水 谷 研 治

 (名古屋大学客員教授 経済学博士)

1  御礼

 時に応じて掲載を頂いた拙文や毎週出させていただいた身辺雑記帳をお読みいただいた皆様には心から御礼を申し上げます。長年にわたり、この望洋会ホームページの運営にご尽力を賜った佐藤治氏と中山明俊氏には感謝の言葉が見つかりません。

 

2  需要不足が最大の問題

 現在の最大の経済問題は供給力過剰であり需要不足である。需要さえ増やせれば、増やしただけ経済は拡大する。

 個人の消費を増やそうと政府も懸命である。貯蓄をすることなく皆が使ってくれれば、ものが売れて、より多く作ることができる。それが雇用の増加や賃金の上昇に結び付き、人々もより豊かになる。

 現実には、もの余りが続くため、買い急ぐ人がいない。待てば、より良いものが、より安く手に入るからである。賃金が上がらないために将来に備えて貯蓄する必要もある。

 企業も工場建設などの投資を増やせば、ものが売れて景気が良くなる。それが産業界全体を潤すようになるであろう。

 しかし経済が成長しない状況が続いている。そのため将来に向かって売り上げが増えると見込めない。これでは積極的な設備投資が行われない。

 企業は懸命に売り上げの増加を図っている。海外への輸出がその役割を果たし、その成果が全体の経済規模を拡大するのに役立った。

 品質が良くて安い日本製品が世界を席巻した。我が国は貿易黒字を増大させ、世界最大の対外純資産保有国になった。

しかし相手の国々は逆に赤字になる。その対策として輸入を制限し、国内での生産に力を入れるようになる。諸外国の生産活動に日本の企業も協力し力を入れてきた。

 海外での生産活動は苦難に満ちている。生産を軌道に乗せるために日本国内の活動を犠牲にせざるを得ない。

 長年にわたる苦労の末、ようやく海外生産が軌道に乗り、当初は悪かった品質も向上してきた。製品が日本へ輸入されるようになった。日本での製造が中止され、関連する企業が衰退する。産業の空洞化が進んでいる。

 輸出が伸び悩み、輸入が増加して貿易黒字が縮小するように変わっていった。

この傾向は続くと考えられ、やがては貿易収支が赤字となり、それが拡大していくであろう。

それが直接、間接に経済を縮小させる。産業界は萎縮し、投資意欲はますます衰えると考えられる。

 

3 政府による懸命な景気振

 需要拡大のため歴代の政府は懸命に努力を続けてきた。国民に対して金遣いを推奨した。企業にも同様である。

 日銀に協力を求め、大量の資金を供給し、金利を引き下げた。その結果。長期の国債金利が1パーセントを下回る異常な状況に至っている。

 おかげで住宅建設が増え、企業の設備投資にもプラスの要因になったであろう。しかし金余りの中では、資金の値打ちはなく、金融が力を発揮することは不可能である。

 効果を出したのは財政面からの景気刺激策である。減税によって人々の懐を豊かにして消費を増加させた。企業への減税によって企業活動を活発にさせ景気を良くした。公共投資をはじめとする政府の支出増加で直接需要を作り出した。

 景気が良くなった。それによって個人の所得が増えて所得税が増加し、企業業績が向上して法人税が増えた。政府の収入が増加した。しかし当初の財政赤字を補うことはできず、赤字が残る。

 この間も供給力が増加したため、いったん良くなった景気が下降すると政府は景気振興政策を上乗せすることになった。財政赤字の上乗せである。上乗せ分だけ効果が出る。しかし財政赤字が増加する。

 経済水準はほとんど横ばいとなり、成長から見放されている。一方で財政赤字は膨大となり、さらに増え気味である。毎年の赤字の累積としての国の国債残高は急増を続け、危機水準をはるかに超えている。

 

4 続けることが出来る異常な赤字財政

 他国では許されない大幅な財政赤字が我が国では問題にならない。赤字財政の悪い面が表面化しないためである。

 その基本的な理由は我が国の供給力が極めて旺盛なためである。おかげでインフレとは程遠く、何の問題も起きていない。

 大幅な赤字財政を続けても何の支障もなく、しかも景気振興に役立つのである。それが政治的に利用され、多用化されてきた。

 ただし膨大になった財政赤字を大幅に上乗せすることは無理である。すでに限界をはるかに通り越しているからである。したがって財政赤字を増やすことで、さらなる景気浮揚効果を期待することはできない。

 しかしながら赤字を削減すれば不況効果が出るために難しい。結果として膨大な財政赤字が続き、その分だけ国債残高が急増を続けることになった。

 膨大な財政赤字に依存した経済運営がいつまでも続けられるはずはない。我が国の供給力が傾向として縮小しているからである。人手不足が供給力縮小の傾向を助長する。

それを加速するのが世界経済の成長鈍化である。その影響を受け,我が国の輸出環境が悪化する。

 

5 世界経済は大転換

 何十年にもわたり世界経済は拡大を続けた。その背景には超経済大国アメリカが全世界から大量に輸入を続けたことがある。

 その結果、アメリカの貿易収支は膨大な赤字になった。不足する資金を海外から借り入れたためにアメリカの対外純負債は急増を続けている。

 アメリカは方向を転換せざるを得ない。世界経済は縮小するであろう。それが長期間続くと考える必要がある。

 影響は世界中に及ぶ。これまで成長を謳歌していた国々が方向の転換を迫られる。我が国からの輸出も減少するであろう。海外へ進出した企業も打撃を受けると思われる。海外戦略の見直しが必要になる。

 それが我が国の経済水準を押し下げる。悪循環に対応するため、政府は懸命な景気維持策を取り続けることになろう。

財政赤字はさらに増える可能性がある。そのために目先的には大きな景気の下降にはならないと思われる。

その反面、将来の国民の負担になる国債の残高は急増を続け、想像を絶するようになる。

 

6 借金地獄への道

 我が国は世界最大の対外純資産国である。しかも依然として経常収支は大きな黒字である。黒字幅は縮小傾向にあるものの、赤字になるまでは間がある。しかも大きな赤字が続いても対外資産を食い潰せば、対外支払いに困ることはなく問題は起きない。

 しかし少子高齢化が進み、生産力が急速に縮小する結果、我が国の供給力が衰えていく。そして供給力が不足してインフレ経済へと転換する。

 金利が上がると膨大な国債の金利支払額が増加する。国の全税収を当てても金利の支払いができなくなり、金利支払いのために国債を増発する以外になくなる。借金地獄へと転落する。

 悪性インフレになった国ではどのように悲惨な国民生活になるかは世界中で多くの例がある。

 悪性インフレの中では毎日の生活苦に追われて将来に対する夢も希望も持てなくなる。

 

7 破綻を回避する方法

 将来の国民の悲劇を回避することは我々にしかできない。国の借金を返済する以外に方法はない。そのためには我々の考え方を変える必要がある。

 目先の自分だけの利益を追求するのではなく、将来の国民のために献身することである。経済力の基本である供給力を高めるために従来よりも勤勉に働くことが必要である。その成果を国債の返済に回すのである。生活水準を落とすことは不可欠である。

 生産力を高めなければならない。将来の為に活発に投資を行うべきである。満々たる意欲を掻き立てて将来の夢に向かって挑戦する必要がある。

 人々が節約のために消費しなくなれば景気は悪化する。そのうえ国家財政を黒字にするために大増税が必要であり、一方では財政支出の徹底した削減が行われるのであるから景気は大きく下降する。

 それを覚悟して耐え忍ばなければならない。

好景気に慣れた我々にとっては大変な苦しみである。しかし、それが必要なのは我々が長年にわたり借金して安易な生活を送ってきた結果である。

 我々が作った借財を清算し、普通の国に戻れば将来に希望が持てるようになる。

 借金を頼りにして勤勉に働くことを蔑み、新しいことに挑戦する意欲を無くして、安易な毎日を送っていては、やがては行き詰まることは当然である。

 一方、一大決心をして改革に踏み出せば、景気は急落し、それが十年単位で続くであろう。しかし、その間に国民の生き方が健全になれば、再び希望が見えてくる。

 どれほど悲惨な状況になっても、73年前、敗戦当時の惨憺たる状況までにはならない。当時の経験からすると、どれほど落ち込んでも我が日本民族は立ち上がり、世界一を目指す力を持っている。

 22世紀の繁栄を目指し、我々が決意を固め大改革を断行する必要がある。

 

---名古屋大学経済学部望洋会ホームページ最終への寄稿(2018.12.8)から---

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