2018.11.1 名古屋大学
客員教授
経済学博士 水 谷 研 治
政治に翻弄される経済
―――将来の経済を犠牲にする政治―――
安定的な発展のためには政治が将来にわたって安定していることが望ましい。大きな方針は政治が決める必要がある。その方針に沿って長期にわたる努力が要請され、それを政治が強力に進めなければならないからである。
長期にわたる安定的な政権を樹立することは難しい。世界中を見ても、国内政治が混乱している国が多い。長期の政権であっても、いつまで続けられるか分からない。民主主義国では移ろいやすい民意によって簡単に政権が代わってしまうからである。
多くの国民に支持されるためには民意に迎合せざるを得ない。その方法の一つが国民の生活を豊かにし、水準を上げることである。経済的な繁栄が政治に対する要望の最優先になることが多いことからも容易に分かることである。
庶民が求めているのは絵に描いた将来の豊かさではない。目先の自分の生活が実際に良くなることである。その要望には際限がない。最低限の生活保障に始まり、次第に要請の水準が上がっていく。
それを実現するためには全体の経済水準を高めていく必要がある。具体的には景気をより良くしていくことが求められる。
自由経済の下では政府の権限は小さいが、政策の手段が順次整備され、経済政策によって景気を引き上げることが容易になってきた。
財政政策と金融政策がその代表である。それらを多用するようになり、その結果、現実の経済水準は上昇していった。
この状態が続くと、それが常態となり、国民は将来にわたり続くのが当然と勘違いする。政策による異常な押し上げが無くなれば経済水準は当然に下落する。それを是認することができなくなる。
国民は無理な政策を続けることを要求し、政治はそれに応じざるを得ない。その結果として経済体質が悪化し、将来的に、その咎めが重くのしかかってくる。深刻な事態になることが分かっていて、方針の転換を主張しても通らない。
世界中が共通した事態に陥っている。我が国は特にひどい。その咎めがやってくることを考えて対策を講じる必要がある。
---ISIDフェアネス・パーフェクトWebへの寄稿(2018.11.1)からから---