2018.10.1  

世界戦略の見直し

     ―――貿易戦争の影響は甚大―――

   名古屋大学 客員教授  経済学博士

   戦争には大きな犠牲が避けられない。相手だけではなく、自分の方にも大きな損害が出て来る。戦争には誰もが大反対である。それでも仕方がないために戦争になる。戦争を阻止するだけの肩代わりをしてやれば良い。しかしそのようなお人好しの国はない。

 戦争によって利益を得る場合がある。しかし多くの場合、直接・間接に損失を被る。その程度は戦争当事者との関連の強さによることは言うまでもない。

 アメリカと中国との貿易戦争は深刻な事態となっている。互いの面子もあり、簡単に解決して元のように戻ることはないであろう。両国との関係が深い我が国にとっては深刻な事態である。特に両国との関連が密接な産業界は従来どおりでは済まず、大きな転換が求められている。

 貿易戦争の元になったのが、アメリカの膨大な貿易赤字であり、中国の躍進である。両者のおかげで全世界が長年にわたり大きな恩恵を受けてきた。おかげで世界経済は高い経済成長を長期間続けてきたと考えられる。

 米中間の貿易戦争は戦術的な妥協で終息することが考えられる。しかし両国の基本的な経済構造が変わる必要があるだけに、世界の情勢が元へ戻ることはない。それだからこそ、我々としては世界経済が大きな転換点を過ぎていることを認識する必要がある。

 アメリカや中国との取引は輸出入だけではない。工場進出など多面的な関係があり、その見直しとなると、直接関係する企業はもちろんのこと、それらの企業と間接的に関連する企業から多くの産業を通じて全体の経済に影響が及ぶ。規模が大きいだけにマイナスの影響は深刻であり、それが続くであろう。

 直接関係する部門や企業はすでに対応を急いでいると考えられる。しかし、それ以外は事態を見守っているだけのように思われる。大きな世界的な影響である以上、我が国経済全体に対し、長期にわたり従来とは逆の方向へ働くと考えられる。それへの対処を急ぐ必要がある。

---ISIDフェアネス・パーフェクトWebへの寄稿(2018.10.1)から---

 

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