2018.9.1

将来の景気を示さなくなった株価

    ―――株価の性格が変わる―――

         名古屋大学 客員教授   経済学博士  

将来どのような状況になるかについては誰もが関心を持っている。景気の先行きを示す指標として長年にわたり株価指数が利用されてきた。

株価は個々の銘柄の需要と供給によって決まる。それに及ぼす要因は多種多様である。投資家の心理的な影響も見逃せない。結果として異常なほど大きく上下することがある。それでも大勢として将来の景気情勢を先取りして示すと考えられてきた。

相反する動きもなかったわけではない。例えば不景気の株高などである。この場合は不景気で資金が余り、それが株式市場へ流れ込んで株価を押し上げたと考えられる。

ともかく長年にわたり世界的に株価指数が全体の経済の先行きを示すものとして、共通する重要な経済指標の一つとされてきた。

ところが近年、我が国の株価は以前とは違ってきた。日本銀行が大量の株式投資信託を買い続けたためである。日銀は多くの企業の大株主になっている。

この間、大量の株式が市場から吸い上げられたたため株価水準は上昇したはずである。それが我が国の景気の先行きを明るくして経済を活性化し、経済成長率を引き上げる要因となってきたと考えられる。

大量に購入した投資信託を日銀が何時までも保有し続けることはなく、どこかで日銀は売って正常化を図らなければならないと思われる。

ところが大量の投資信託を売れば株価は大きく下がり、景気に悪影響を及ぼすであろう。そのような売却を日銀が断行するのは難しいのではなかろうか。

それだけに株価は歪んだままに推移すると思われる。それは直接、個々の銘柄ごとの株価へ影響するだけではない。全体の株価指数の動きが変わってきているはずである。

株価が大きく崩れないから将来の景気も大きくは下がらないと見ていることはできなくなってきた。

---ISIDフェアネス・パーフェクトWebへの寄稿(2018.9.1)から---

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