米国の貿易赤字が支えた世界経済
名古屋大学 客員教授
経済学博士 水 谷 研 治
膨大な赤字は続けられない 関税の大幅な引き上げ競争が始まりそうである。それは世界貿易を縮小させ、どの国にも利益にならない。分かっていてもトランプ大統領に貿易赤字の削減目標を変えさせることは難しそうである。大量の赤字をアメリカは長年にわたり続けてきた。それは弱小国には真似のできないことであった。支払い資金が足らなくなり行き詰まるからである。アメリカは不足する大量の資金を海外から借りてくることができた。経済大国アメリカにドルを預けることに不安を持たれなかったからである。結果としてアメリカの対外借金は巨額になり、しかも膨大な経常赤字分だけ毎年増え続けている。このように異常な事態が続くだけの条件があったのでる。しかし、いつまでも続けられるはずはない。
基軸通貨国の強みと限界 世界中で通用する最も信頼性の高い通貨ドルはいわゆる基軸通貨であり、誰もが欲しがった。大量に保有されるドルはアメリカへ預けられた。それがアメリカに対する債権でありアメリカの債務である。ドルが基軸通貨である限り、ドルは信頼されている。しかしアメリカの対外純債務は莫大であり、返済するためにはドルの価値を大きく引き下げる以外になさそうである。残念ながらドルに代わる通貨がない。ユーロがその役割を期待されたものの、期待外れである。それでもやがては限界を迎え、ドルは信用されなくなっていくと思われる。基軸通貨の役割を終えたドルの値打ちは大きく下がるであろう。もはやアメリカは世界から借金をすることができなくなり、膨大な借金の返済を迫られる。
世界経済の転機 危機が表面化する前にアメリカは巨額の赤字を削減し黒字へ転換しなければならない。長年にわたりアメリカが大量に輸入を続けたおかげで多くの国が潤い、それらの国々が輸入を増やしたため世界経済の拡大が続いてきた。アメリカはあらゆる方策を駆使して輸入を大幅に削減しなければならない。それが全世界へ及ぼす影響の大きさを考えれば、誰もが阻止したくなる。しかし、ある程度の是正ができたとしても、方向を大きく変えることは難しいであろう。それが世界経済を正常化させる。これまでのような高い経済水準を維持できなくなる。その影響をすべての国が受ける。我が国も例外ではない。直接的だけではなく間接的な影響も考えなければならない段階である。 (みずたに けんじ)
---時局コメンタリー第1673号時局心話会(2018.6.12)から---