財政改革に景気悪化は不可欠

                       名古屋大学  客員教授

      経済学博士  

赤字財政は不健全であり是正するべきだと誰もが考える。 現実には長年にわたり膨大な赤字を続けてきた。その結果、国の借金は莫大な金額となっている。この借金を削減して正常に戻すことが財政再建である。そのためには収入を増やし、支出を減らして黒字にしなければならない。黒字分だけしか借金は減らないからである。巨額になった国債を減らすためには、毎年大きな黒字にする必要があるが、それは難しい。増税には誰もが反対である。政府の支出を削減することには賛同が得られない。しかも、それらを断行すれば、景気は急落を続ける。経済水準は大幅に下落するであろう。現在の経済は巨額の赤字財政で押し上げられているからである。

 

財政改革の先送りができることが我々には幸せである。 現在のように国内の生産力が旺盛で物やサービスがあり余っている限り赤字財政による需要の増出は好ましい。供給過多で需要不足による景気の悪化を阻止できるからである。ところが我が国の供給力が衰え始めている。企業の海外進出に伴って国内産業の劣化が続いている。少子高齢化が経済社会へ及ぼす影響は需要面ばかりではない。将来にわたり供給力の低下が続くであろう。それは先進経済大国のたどった道である。その時点で巨額の国債残高が悲劇をもたらす。膨大になる金利の支払いのために借金を増加させなければならなくなり、国家財政が借金地獄に陥るためである。

 

将来の国民は悲惨である。 最後は個人なら破産であり、企業なら倒産になる。その場合には、もう一度やり直す機会がある。しかし国家にはそれがない。国民は永遠に責め苦を担わなければならない。悪性インフレにより国民生活は窮迫を続けるであろう。彼らには、それを逃れる方法がない。その原因となる巨額の国債を作ったのは我々である。その恩恵に浴している我々が正常に戻していくことは当然の義務である。ところが、我々は長年にわたり財政再建を先送りしてきた。しかし今や覚悟を決める時に来ている。財政改革が景気を急落させることを十分に承知したうえで国民の一人一人が大改革の決意と準備をする必要がある。   (みずたに けんじ)

 

---時局コメンタリー第1653号―時局心話会への寄稿(2018.1.16)から---

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