名古屋大学
客員教授
経済学博士 水 谷 研 治
2017.12.1
平穏な景気が続いた要因
―――将来へ残す借金をさらに増やす―――
今年の景気に満足している向きは少ない。しかし極端な不満も聞かれないように思われる。
人手不足が目立ち、運送業や飲食業で賃上げが進み、値上げが広がった。このような状態は景気が良く、売り上げが増える場合に起きていた。すなわち好景気の象徴であった。
今年の場合は売り上げが増えているわけではない。もっぱら少子高齢化のための人手不足である。そのために一般的な賃金の上昇になっていない。したがって所得の増加に結び付かないため、全体としての需要の拡大につながらず、景気を引き上げる力にならない。
経済の成長がなくなって久しい。それに慣れてしまった感じである。大きなマイナスがないのであるから、このような状態で良しとする考えが増えているように思われる。
平穏な経済情勢が自然であれば今後も続くと考えられる。しかし、その背景に政府の懸命な政策努力があることを見逃すことはできない。
政府は大量の借金をして景気を下支えしているからである。本来なら借金をしてはならない。不足する分は増税するか支出を削減しなければならない。その場合は景気を押し下げる。
それを避けるために、政府は長年にわたり国債を発行し経済水準を押し上げ続けてきた。本来なら国債発行を減らしていかなければならない。しかし、その場合には景気が悪化する。それを避けるために、逆に国債の発行を増やしてきた。
その結果、国債残高は限界をはるかに超えている。このことは現在の平穏な経済がいつまでも続かないことを意味している。
我々にとっては幸せなことに、政府は景気の維持向上に懸命である。それを最優先にする結果として、財政赤字を削減する財政改革を先送りしている。
消費税引き上げの先送りはその典型である。財政支出の削減も実施されていない。その恩恵を直接我々が受けている。大きいのは景気が維持されているお蔭を被っていることである。このような平穏な経済がいつまでも続くと考えるのは余りにも楽観的である。
---ISIDフェアネス・パーフェクトWebへの寄稿(2017.12.1)から---